今回の調査では、前回を上回る312件の回答結果が得られた。社内コミュニケーションに対する課題意識と要因、その防止・抑制に関する取り組みについて報告する。
●約8割の企業がコミュニケーションに課題を感じている
「社内のコミュニケーションに課題があると思うか」という質問に対して、約8割の企業が「課題がある」と感じており、2016年調査とほぼ同じ結果が得られた。大企業、中堅企業、中小企業のそれぞれで、「大いにそう思う」が30%、「ややそう思う」が46~47%と回答しており、企業規模に関係なく、ほぼ同じ割合の人々が等しく課題感を抱いている。
【図表1】社内のコミュニケーションに課題があると思うか
●部門間に課題ありが7割、経営層と社員の間が6割
昨年の調査では、「部門・事業所間」に課題を感じる企業が約7割あった。今回の調査では、物理的に距離がある「事業所」と、取り扱う業務内容に距離がある「部門」を切り離し、それぞれを独立した選択肢にしたところ、「部門間」に課題を感じるという回答が69%に上り、全体のトップを占めた。「事業所間」は36%である。社内コミュニケーションにおいては、物理的な距離よりも、業務内容の距離がそのまま人と人との距離に繋がっているようだ。
また、「経営層と社員」の間は60%、部署内に於いては「部長とメンバー」「課長とメンバー」がそれぞれ42%など、経営層や管理職と一般社員の間にも距離があることが見受けられる。
【図表2】課題のあるコミュニケーションはどこか(全体)
●大企業では「経営層と社員」の間に課題感がある
数多くの部門や事業所を持つ大企業でも、やはり部門間に課題を感じている。特徴的なのは、「経営層と社員」の間の課題感が、全体の数値より8ポイントほど大きいことだ。やはり社員数が多くなるほど、経営層と社員の距離は離れてしまうのだろうか。
【図表3】課題のあるコミュニケーションはどこか(大企業)
●多様な働き方をする社員とのコミュニケーション不全も
コミュニケーション不全を感じる具体例を見てみよう。
【大企業】
・メール文化により、オーラルベースでのコミュニケーションが減った。(商社・流通)
・会話が少ない。飲みに行かない(誘われない)。個人志向が強い(特に若者)。会話がないから仕事のベクトルに齟齬が生じる。(情報・通信)
・経営層と社員の間では、事象のみ伝わり、本来の目的や意味や思いが伝わらない。(商社・流通)
・上長が忙しく席にいないことも多いため、メンバーとのコミュニケーションが十分でない。(メーカー)
・変化のスピードにコミュニケーションがついてきていない。(メーカー)
・担当する業務での関わりが無いと、あまりコミュニケーションをとる場が少ない。(メーカー)
・セキュリティを意識しすぎるあまり、必要情報にアクセスできない。(メーカー)
【中堅企業】
・会話の少ない環境。(サービス)
・経営者との間では、従業員へ説明なしに進めることが多く、噂や実施中に知ることが多い。(メーカー)
・組織が縦割りで、連携が取れていないと思うことが良くある。(メーカー)
・事業所間となると、管理職以上でないと話す機会がほとんどない。(情報・通信)
・自らの仕事に専念するあまり、他者の仕事・役割に対し、無関心であることが多い。(メーカー)
・出向者とプロパー社員の間に溝がある。(運輸・不動産・エネルギー)
・客先常駐者が多い。帰社日を利用し部門内のコミュニケーションはとれているが、部門間となると、きっかけを持つ社員同士以外は、コミュニケーションがない。(情報・通信)
【中小企業】
・メール、メッセンジャー、チャットなどを利用することが増え、顔を合わせて会話をする機会が減った。(メーカー)
・会社の方針等が不透明な状態のまま。知る人のみぞ知る、という状態になっている。(メーカー)
・上司が多忙すぎて部下の行動が見えていない。(商社・流通)
・情報伝達のスピード感がない。(メーカー)
・担当する仕事を越えてのやり取りが少なく、仕事における効率や人材の融通が損なわれている。(メーカー)
・営業の事業所と倉庫のロケーションが離れているためコミュニケーション不全が発生している。(メーカー)
・専門性の高い業務内容であるため、チームで仕事をせず、各々で業務を進めている。(情報・通信)
・フロアが別だったり、直行直帰でオフィスで働かない人も多かったりするので、コミュニケーションが電話だけになってしまうことも多い。(サービス)
・契約社員が他部門の情報を得る手段が口コミ以外にないため、社内にある技術やリソースの有効活用ができていない。(情報・通信)
企業規模に関わらず、各社が抱く課題感は似通っている。特筆すべきは、「出向社員」「テレワーク社員」、「契約社員」とのコミュニケーションに課題感が生じていることだ。「働き方改革」により、今後ますます多様な働き方が増えてくる。企業人事にとって、避けては通れない課題となりそうだ。
●コミュニケーションの不足は業務の障害になる、と96%が回答
「社員間のコミュニケーション不足は業務の障害になるか?」との問いに、96%が「障害になる」と答えた。企業規模別でも差異はない。
【図表4】コミュニケーション不足は業務の障害になるか
●4分の1の企業が「社内情報共有ができていない」と回答
「社内の情報共有は十分にされているか?」という問いに、4分の1の企業が「共有できていない」という危機感を表した。企業規模による違いも見られない。
否定的とは言わないまでも、「ある程度は共有できている」が57%、「どちらとも言えない」が15%を占めるなど、ほとんどが課題を残した回答である。自信を持って「十分に共有できている」とは言えない現状があるようだ。
【図表5】社内の情報共有は十分にできているか
●「メール」が「対面」を上回るが、会議は「対面」が強い
コミュニケーション手段で利用の多いものは、昨年同様「メール」(84%)が「対面」(71%)を上回った。
今回の調査では、選択肢をさらに細分化したところ、会議の手段に関しては、「対面での会議」が「テレビ会議」の2倍に達することが分かった。この比率は大企業でも変わらない。
【図表6】社内のコミュニケーション手段で利用の多いもの
●「管理職のコミュニケーション力」が阻害要因のトップに
コミュニケーションを阻害している要因について、今回の調査では、「コミュニケーションスキルの低下」が組織内のどの層に顕著であるかも含め、選択肢を細分化した。その結果、昨年1位を占めた「組織風土・社風」(45%)を抜いて、「管理職のコミュニケーション力」が53%で阻害要因のトップになった。3位は「社員のコミュニケーション力」(44%)、4位が「経営層のコミュニケーション力」(33%)である。社員のコミュニケーション力低下が危惧される中、彼らをリードする管理職にも、高いマネジメント能力が求められている。
【図表7】コミュニケーションを阻害している原因
では、具体的にどこに原因を感じているのだろう。
・上司の業務過多によるコミュニケーション時間の不足。(サービス)
・管理職が部下の業務以外のことに興味をもたない。(サービス)
・若く管理職になるものも多く、管理職教育も不十分の為、マネジメントができていない。(メーカー)
・「出る杭は打たれる」社風から思ったことを提案しにくい。(メーカー)
・メール等記録の残る方法に依存している傾向が強く、対面でのコミュニケーションが少ない。なるべく対面しないで済まそうとする傾向がある。(サービス)
・業務効率化への傾注と残業規制の強化で、ワイガヤが減少した。その結果、部門横断的な結び付きが希薄化している。(商社・流通)
・上司と部下の人間関係を構築する場所が無くなっている(業務時間内のみ)。食事会や飲み会が必ずしも良いわけではないと思うが、コミュニケーションスキルのない上司の場合は厳しいと感じる。(メーカー)
・管理職を含め、個人として仕事で成果をあげれば良いと考える社員が多く、チームワークを推進しない。(情報・通信)
・プライベート時間を優先する傾向が増加している。(情報・通信)
・人材の流動化が進んでおり、中間入社者が職務ライン以外に社内で関係性をうまく作れず、情報的に孤立しがち。(マスコミ・コンサル)
・契約社員、派遣社員、請負常駐、業務委託など、雇用形態が多様化し仕事に対するスタンスがそれぞれ違ってきているので目標共有が難しい。(マスコミ・コンサル)
・派遣社員など短期の雇用が増えて、顔を知らない社員が増えた。(商社・流通)
業務効率化や残業規制、成果主義、プライベート優先などが、結果として「業務の多忙化」と「没コミュニケーション」につながり、「対面」で人と関わる余裕までなくなっている、という感想が見受けられた。中には「一人でパソコンに向かっているから」という声も。また、必ずしも「阻害原因」とは言えないが、ダイバーシティに対する課題も散見される。
管理職に対する人事からのサポートも、今後ますます必要となっていきそうだ。
●「社内報」を実施している企業は30%
コミュニケーション不全の防止・抑制として、実際に実施している施策についてアンケートを取ったところ、「社内報」(30%)が1位となった。以降、「従業員アンケート」(28%)「自己申告制度」(26%)と続く。
【図表8】コミュニケーション不全の防止・抑制のために実施していること(全体)
●大企業では研修・制度の実施が多い
大企業だけで見ると、「クラブ・サークル活動」(21%)「飲み会・ランチ補助」(20%)「レクリエーション」(17%)「社員旅行」(12%)などは、全体より低い割合となった。
一方で、「社内報」(47%)「従業員アンケート」(41%)「自己申告制度」(32%)「メンター制度」(31%)「コミュニケーション研修」(28%)「コーチング研修」(26%)「社内公募制度・社内FA制度」(21%)は、全体よりもかなり高い。大企業では依然として、研修や制度を実施する割合が極めて高いと言える。
【図表9】コミュニケーション不全の防止・抑制のために実施していること(大企業)
●効果を実感した取り組みトップは「運動会・スポーツ大会」
上記の防止・抑制策を実施した中で、実際に効果を実感した取り組みは何だったのか。回答のトップは、63%で「運動会・スポーツ大会」だった。チームでの協力や、ゴールに向かって競い合うスポーツは、会話だけのコミュニケーションよりも、より一層の達成感や一体感、盛り上がりを「体感」できるのかもしれない。以下、「経営層との定期面談・ミーティング」(59%)「飲み会・ランチ補助」(51%)「社員総会・キックオフ」(48%)「社員旅行」(48%)が続く。実施率ではトップであった「社内報」(16%)を効果ありと実感している企業は、実施している企業の16%に過ぎず、下位にとどまった。
「その他」の取り組みの例としては、「管理職との面談」「ツールの導入」などが挙げられていた。
【図表10】コミュニケーション不全の防止・抑制策の中で、特に効果があったと思われる施策
社内コミュニケーション活性化に効果があった取り組みについて、自由に回答してもらった。各社さまざまな取り組みがある。
【飲み会・レクリエーション】
・飲み会(ノミニケーション)の推進。会社が月1回3000円/人の補助金を出している。(メーカー)
・全社員を対象としたBBQや納涼会・納会。(サービス)
・コーヒーブレイクの機会を設けた。(メーカー)
・社内食堂を設置してコミュニケーションの場を作る。(情報・通信)
・様々なワークショップやイベントを開催。(メーカー)
・上司部下が一緒になって部署対抗で駅伝大会を開催した。(メーカー)
・スポーツ大会&BBQ大会。(商社・流通)
・飲み会、お誕生日会、社員旅行。(メーカー)
【経営層との直接交流】
・社長との座談会。(メーカー)
・経営層との定期ミーティングは効果がある。双方から忌憚なき意見交換ができる風土ができてきた。(メーカー)
・経営者と社員との膝づめ対話を実施したが、相互の理解、相互の尊重に役立った。(商社・流通)
・幹部との懇談会等で、軟らかいテーマを選定。場が盛り上がり、双方において意外な一面を学べた。(運輸・不動産・エネルギー)
【若手の集まり・同期会】
・社員が自発的に入社5年以内の全国メンバーに声をかけ、一年に一度集まることを3年以上継続しており、若手社員同士の活性化につながっている(商社・流通)
・若手社員を月に1度支店へ集めて、社員同士でフリートーク会を実施している。悩みや相談事も自由に発言できるようになっている。(メーカー)
・年次が同じ社員同士で研修をさせると、部署が違っても話が弾み、それが将来的には組織の強化に繋がると感じる。(メーカー)
・入社2か月後に、キャリア入社組の懇親会を開催。社内人脈構築とガス抜き、人事としての状況把握に役立っている。(商社・流通)
【サークル活動】
・語学教室、会議室を利用した日本酒の会、山登り会など。福利厚生ではない私的な交流会による親睦の方が、個人的なつながりが深まる。(サービス)
・スポーツ系のサークルは、体を動かすことがストレスなどの発散になり、その後自然と食事会に移る。(メーカー)
・社員自らが企画運営参加を行う朝活夜活の取り組み。2015年からスタートし、累計で3000人を超える。(商社・流通)
【研修・会議・プロジェクト】
・報連相研修は、上司部下のハードルをある程度まで下げることに一定の効果を示した。(サービス)
・全管理職(ラインマネジャー)向けの半年間のコーチング研修。(金融)
・プロジェクトチームの結成や集合研修・会議による課題の共有。(メーカー)
・スモールミーティングの多数開催。(商社・流通)
・部署の枠を超えた意見交換会をボトムアップ的に月1回開いている。(メーカー)
・職場(上司、同僚)の実態に関するアンケートを全員からとり、平均点だけを開示して全員で職場討議する。(メーカー)
・新ビジネス、運用改善の社内公募制度を導入したところ、部署内の会話が増え、他部署との会話にも波及した。(情報・通信)
【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】社内コミュニケーションに関する調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2017年9月6日~9月20日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び非上場企業の人事担当者
有効回答:312件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照をいただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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