大手ほどマナー知らずで、面接後でも4社に1社が「サイレントお祈り」
採用、人事関連の調査研究機関であるHR総研は「書類選考の合否連絡」と「面接後の合否連絡」を調査をしており、「サイレントお祈り」の実態が判明している。
2018年度新卒採用での調査(2017年3月調査)を見ると、71%の企業が書類選考の合否を全員に連絡しているが、29%は「合格者のみ」。不合格者は書類選考に落ちたことすらわからないのだ。
企業規模別に見ると、大手ほどマナー知らずで「1001名以上」の企業の36%は不合格者に連絡していない。これは相当に高い比率だ。超大手の有名企業には数万通のエントリーシートが集まるから、もっとこの数字は高いだろう。
「面接後の合否連絡」は書類選考ほどひどくはなく、中堅・中小の「サイレントお祈り」企業は1割未満だ。しかし大手はぐんと高く23%もある。つまり4社に1社は「サイレントお祈り」企業なのだ。
ほとんどすべての学生が経験し、「やめて欲しい」と訴えている
学生は大手に集中するから、ほとんどすべての学生は「サイレントお祈り」を経験している。経験しない学生は例外的な存在だ。そして学生は怒り、恨み、苛立っている。
HR総研が昨年6月に2017年卒生を対象にした調査で、「就職活動中、採用する企業側に改善してほしいと感じたこと」を聞いている。もっとも多いのは「やめて欲しい」という訴えだ。何度も「サイレントお祈り」を経験していることがわかる。この切実な声にサイレント企業は何と答えるのだろうか?
「サイレントお祈りはやめて欲しい。結果報告時を明確に教えて欲しい」(京都大学、文系)
「サイレントはなくしてほしい。合否に関係なく早く連絡してほしい」(関西外国語大学、文系)
「選考の合否にかかわらず連絡をくれないと困る。合否の結果を伝えるまでが面接だと思う。サイレントお祈りはその企業の印象を悪くするだけ。落とすなら落とすで早く連絡をくれれば学生はすぐに切り替えできる。合否の連絡はマスト、できれば早くくれと言いたい」(横浜国立大学、理系)
「サイレントで終わりにするのやめて、合否に関わらず連絡して欲しい」(奈良県立大学、文系)
「サイレントはなるべく少なくしてほしい。最終面接ぐらい合否の連絡をしてほしい」(東京女子大学、文系)
「サイレントはやめてほしい。せめて合格者だけに通知する旨を就活生に伝えてほしい」(信州大学、文系)
「合否結果のサイレントはやめてほしい。今か今かと待つのは心臓に悪い。ダメならダメでさっさと言ってもらえると次に進める」(甲南大学、文系)
「サイレントくらいなら落選のメールが欲しい」(横浜市立大学、文系)
「学生にもう少し人権をください。せめてお祈りメールは出してほしいし、出すのを早くしてほしい」(一橋大学、文系)
裏表のある企業の言葉と人事のマナーに不信の眼差し
企業に対して不信感を募らせる学生も多い。採用担当者は学生に「社会人としてのマナーを守れ」「時間厳守」と言っているのに、企業はマナーを守っていないではないか、と怒っている。
大人の社会には、建前とホンネが絡まってできるウソが多い。しかし選挙に行かない若者はこういうウソに遭遇したことが少ないから、裏表のある企業の言葉に怒るのはもっともなことだ。
「サイレントお祈り。報告連絡相談ができない社会人は要りませんと言っておきながら、そちらができていないぞ」(一橋大学、文系)
「サイレントで不合格を伝えるなら結果を伝える期間を短くしてほしい。待っている時間をもったいないと思う。また、合格者のみに連絡なら事前にそう伝えるのが礼儀だと思う」(名古屋市立大学、文系)
「サイレントお祈りをやめてほしい。マナーがなってない」(三重大学、文系)
「サイレント→学生側に誠意を求めるとか言ってるポンコツ企業に限ってサイレントしてくる(サイレントするなら学生がセミナーや面接・内定を無断で断っても文句は言わないでほしい)」(明治大学、文系)
「“通過者のみに連絡”は迷惑だし、誠意も感じられないのでやめてほしい」(法政大学、文系)
「サイレントを辞めてほしい。学生には期限を守れと主張する割に、自分らは期限を守らない」(関西大学、文系)
「サイレントはやめて欲しい。何日までに連絡すると言っていたのにしてこないのは非常に失礼だと思った」(神戸市外国語大学、文系)
サイレントの裏事情――採用予備軍を確保するため
なぜ企業が「サイレント」なのかを理解している学生も、少ないがいる。
「連絡する手間やお祈りしたらもう選考復帰させられないという理由があるのはわかるが、サイレントはするべきではないと思う」(東京農工大学大学院、理系)
この学生が書いている通り、サイレントにする理由のひとつは「手間」だ。大手企業のサイレント比率は高いが、応募者が多く、選考で落とす学生の数も膨大だからお祈りメールでもかなりの手間になる。
「お祈りしたらもう選考復帰させられないという理由」は「手間」よりも大きな理由だろう。企業は採用計画を立てて行動しており、採用予定数も事前に決めて、採用活動を展開している。そして採用活動の仕上げとして面接が位置づけられ、採用予定数に達するまで内定を出す。実際には内定辞退を見込むので、予定数より多い学生に内定を出す。しかし内定辞退が多くなり、予定数に届かないのはよくあることだ。そこで当落線上で採用に至らなかった学生を採用予備軍として確保するため、不合格通知を出さないのだ。企業の勝手な都合だが、サイレントにはそんな裏事情がある。
企業の品格を汚すサイレント
確かに数千、数万の応募者がいる大手の場合、落とす学生の数は膨大。お祈りメールといえども手間かかかるし、発送ミスが起こる可能性もある。また内定辞退者が多い場合の採用予備軍も必要だろう。といってサイレントしていいという理由にはならないだろう。人事は「サイレントはしない」と決意すべきだと思う。
面接会場に学生を招いておいて、落とした学生を放置する企業は、自らの品格を汚していると思う。少子高齢化が進み、現在は労働力不足。新卒マーケットも売り手市場だ。これからさらに人は少なくなる。選考も「選ぶ面接」から「選ばれる面接」へと変わるだろう。そして品格のない企業の名前はソーシャルメディアで拡散する。そんな時代になれば、サイレント企業に人は集まらないだろう。
また大手企業では、CSRやコンプライアンスを重視し、社会に対し宣言しているはずだ。コンプライアンスにしてもCSRにしても根底には一貫した誠実さが必要だ。学生に対しサイレンとするのは、自ら宣言しているコンプライアンスに反していないだろうか。熟考を期待したい。
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