HR総研では、人事の課題を俯瞰するために2つの軸を用意した。ひとつは「採用・退職・人材育成・配置・人材ポートフォリオ」という人的資源管理の軸である。もうひとつは「組織・制度・仕組み・システム」という組織管理の軸である。それぞれを「現状」と「将来(3~5 年後)」に分けて課題を問うてみた。

大手は「グローバル人材育成」、中小は「若手育成」を重視

「現状の採用・退職・人材育成・配置・人材ポートフォリオ面での課題」で全体の最多は「次世代リーダー育成」(64%)である。次いで「新卒採用」(60%)、「中途採用」(52%)だ。しかし規模別に見ると課題は異なる。
「次世代リーダー育成」はどの規模でも重要な課題だ。しかし「新卒採用」と「中途採用」は「300 名以下」でとても重要だが、「1001 名以上」では 44%と低めの数字である。「グローバル人材育成」に興味を示す中小企業はほとんどないが、大手では59%と高い。「女性活用、登用」でも「1001名以上」の関心は高い。ところが「若手育成」になると中小で高く、大手で低い。つまり大手では仕組みとして人的資源管理ができているのだろう。

[図表1]“現状”の【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面での課題(複数選択)

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

年齢構成のいびつさ、リーダー育成、グローバル人 材育成に関わる声

上記のアンケートは「複数回答可」として答えてもらった。もうひとつ同じ設問で「最重要」課題についても問い「択一」で回答してもらった。その結果も同じ結果を示し、最重要は「次世代リーダー育成」(28%)、次いで「新卒採用」(13%)、「中途採用」(10%)だ。そして大手は「グローバル人材育成」を、中小は「若手育成」を重視している。
フリーコメントでは年齢構成のいびつさ、リーダー育成、グローバル人材育成に関わる声が多い。「採用を控えたため 30 代~40 代前半の人材が少なく、ピラミッドがいびつになっている。次世代リーダーを急いで育成し将来への対応に備える必要がある」、「55 歳以上の幹部比率が高く、再雇用後の処遇や配置の問題がある。同時に、バブル入社に大きな山があり、放っておくと人件費高騰要因になると同時に、一斉大量退職の可能性もある。」、「海外現地法人のマネジメントと海外現地法人の人材採用・評価処遇が課題」、「若手の教育、特に次の世代のリーダーとなる人材を育成する仕組みが会社の中で明確になっていない」、「会社の方針として、グローバル展開に向かっているが、人材育成部署ごとに任されており、グローバル人材育成に関して一貫したシステム、教育研修制度が整えられていない」といった声があった。

[図表2]“現状”の【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面での最重要課題(択一)

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

リーダー不在の危機感を感じるコメント

人事課題はこれから変化するのか? 「今後 3~5 年の課題」を訊いてみた。結果は「現在」と同様に「次世代リーダー育成」が 56%でトップ。続いて「新卒採用」(53%)、「中途採用」(39%)、「マネジメントスキル向上」(37%)、「若手育成」(35%)である。
「今後 3~5 年後の最重要課題」を択一で回答してもらったアンケートでも同じ傾向だ。「現在」とほぼ同じ項目が上位を占めている。
フリーコメントは将来への危機感をあらわにするものが目立つ。「若手採用によって、現在の高齢化をくいとめたい」、「社員数が少なく、常にリーダー人材不足である」、「次世代リーダーを育成し、プロパー社員が幹部を占めるようにしていく」、「次世代リーダーの一定数の確保が必要」、「現状の管理職の大半が 50 歳を超える。交代要員としての次世代リーダー育成が重要である」、「若年世代の定着率が悪く、プレーヤーは育つがマネジメント領域に若手が進出しないまま退職してしまうことが多い」。
リーダー不在の危機感を感じさせる。

[図表3]“今後3~5年”の【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面での課題(複数選択)

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

組織・制度面の課題は「モチベーシ ョン維持・向上」

「現状の組織・制度・仕組み・システム面での課題」(複数回答可)として最多は「従業員のモチベーション維持・向上」(51%)、続いて「人事制度の改定」(44%)、「評価の定着、評価者スキルの向上」(41%)、「組織開発・組織風土改革」(40%)である。これらの項目では業種や企業規模の違いはあまりない。
しかし「タレントマネジメント」と「コンプライアンス体制・意識の徹底」では「1001 名以上」が突出している。
「現在の最重要課題」(択一)では順位と項目が変わり、「人事制度の改定」(20%)が最多である。そして「評価の定着、評価者スキルの向上」と「従業員モチベーション維持・向上」が 13%で続いている。「長時間労働」を課題とするのは「300 名以下」の企業が多いが、フリーコメントでは大手や中堅でも課題とする声が目立つ。

[図表4]“現状”の【組織・制度・仕組み・システム】面での課題(複数選択)

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

今後3~5年の課題は「従業員のモチベーション維持・向上」、「メンタル不調者」や「モチベーションアッ プ」という言葉も目立つ。

「今後3~5年の課題(複数回答可)」でも最多は「従業員のモチベーション維持・向上」(42%)だ。続いて「人事制度の改定」(36%)、「教育体系・能力開発の導入・改定」(34%)と「現在」の項目と変わらない。
「今後3~5年の最重要課題(択一)」でも「従業員のモチベーション維持・向上」(19%)がトップだが、2位は「人事制度の改定」(15%)、3位は「総額人件費管理」(11%)、そして「教育体系・能力開発の導入・改定」(10%)と「組織開発・組織風土改革」(9%)が続いている。
フリーコメントでは「人事システムの見直し時期に伴い、効率化とアウトソーシングの検討」、「公正な人事評価制度の確立」、「マイナンバー制度導入による就業規則の整備」などの具体的な声が多く、「メンタル不調者」や「モチベーションアップ」という言葉も目立つ。

[図表5]“今後3~5年”の【組織・制度・仕組み・システム】面での課題(複数選択)

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

現在の人事の役割は「ビジネス戦略のパートナー」と 「人材管理のエキスパート」

人事の役割は何か? 人事担当者でも明言をためらう設問かもしれない。もっとも有名な定義がある。『MBAの人材戦略』で著名なミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した4分類だ。<<1.戦略パートナー(Strategic Partner)、 2. 管理のエキスパート(Administrative Expert)、 3. 従業員のチャンピオン(Employee
Champion)、4.変革のエージェント(Change Agent)>>
今回はこの4分類から現在の人事の役割を選んでもらった。全体の 33%が「人事管理を精密に行う(人材管理のエキスパート)」であり、次いで「ビジネスの成果に貢献する(ビジネス戦略のパートナー)」が 31%でほぼ同数だ。3番目は「組織・風土改革実行を中心的に担う(組織・風土変革のエージェント)」25%。そして目立つのは「従業員代表として従業員の声を経営に届ける(従業員のチャンピオン)」の少なさで、わずか 4%である。
企業規模では有意な差異は認められないが、業種では大きな違いがある。メーカー系では「ビジネス戦略のパートナー」(37%)と「人材管理のエキスパート」(40%)が非メーカー系より10ポイントも高い。逆に非メーカー系は「組織・風土変革のエージェント」が 31%と高く、メーカー系(16%)の倍近いスコアである。

[図表6]現在の人事部門が求められている役割

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

経営環境の変化に対応する人事の進化

「今後」の人事の役割を訊くと、「現在」の役割とはかなり違う。過半数が「ビジネス戦略のパートナー」(53%)を挙げており圧倒的に高い。続いて「組織・風土変革のエージェント」(27%)だ。「人材管理のエキスパート」(10%)は低く、「従業員のチャンピオン」は 4%に過ぎない。「現在」の役割では業種による大きな違いがあったが、「今後」の役割に業種や企業規模の違いは認められない。
また、今後に人事の役割が「大いに高まる」という回答は22%、「高まる」は 49%ある。この結果にも業種や企業規模の違いはない。
フリーコメントには「製造業なので、モノづくりや技術に関わる部門が主役であるべきで、管理部門はあくまで支援であるべきと考えます」という考えもある。メーカーにおけるこのような役割認識は見識だと考える。しかしその一方で、「経営層から人事が果たすべき期待とプレッシャーがかなり厳しくなってきており、そうした声に応えていくことは人事の役割が高度化していくことを意味している」、「より経営判断のスピードアップが求められる状況の中で、単なる HR 部門として管理のみを行うのではなく、今後の展開や必要な対応策を即時に提供できる HR が今後求められると感じている」、「管理から活用、経営に対する事務局からパートナーへの転換が重要になるとここ一年ほど肌で感じている」と経営環境の変化に対応するために人事が進化しなければならないとする意見が目立つ。

[図表7]今後、人事部門が求められる役割

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

[図表8]今後、人事部門の役割は高まるか

「HR総研 人事白書2015」人事の課題に関する調査結果

【調査概要】

■調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
■調査時期:2015年1月14日~4月22日
■調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
■調査方法:WEBアンケート
■回答者数:700名(1001 名以上 153 名/301~1000 名 195 名/300 名以下 352 名)

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