デジタル化や世界情勢の変化で、ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代において、柔軟な思考と素早い決断力を持つ次世代リーダーの育成は、企業の生き残りと成長の鍵を握っている。HR総研が実施している人事の課題に関する調査でも、「次世代リーダーの育成」は例年トップの項目になるなど、多くの企業において、優先的に取り組むべき事項として認識されている。しかし、効果的な育成方法や評価基準の確立には多くの企業が苦心している現状がある。HR総研では、選抜型研修や配置を通じての育成等、各企業の次世代リーダー育成への取り組み実態について最新動向を調査した。調査結果をフリーコメントも含めて以下に報告する。

次世代リーダー確保の方針、8割が社内登用重視

まず、次世代リーダー育成に関する企業の取組み状況や取組み方針について見てみる。なお、本調査では、将来的に経営や事業・職能部門のトップを担う「次期経営幹部候補」のことを「次世代リーダー」と定義している。「次世代リーダーの育成・確保に関する取組み状況」について、企業規模別に見てみると、従業員数1,001名以上の大企業では「安定的に取組みを継続中」(32%)と、「取組みを開始した段階」(32%)とを合計した「既に取り組んでいる企業」(以下同じ)が64%と6割を超えているのに対し、301~1,000名の中堅企業では「既に取り組んでいる企業」は52%と約5割となっている。300名以下の中小企業では「既に取り組んでいる企業」はさらに少なく35%にとどまっており、企業規模が大きいほど、次世代リーダーの育成・確保の取組みが実施されていることがうかがえる(図表1_1)。

【図表1_1】企業規模別 次世代リーダー育成・確保に関する取組み状況

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

次世代リーダー育成に関する企業の取組み方針について見てみる。
まず、次世代リーダー確保のための方法について、「A:社内登用重視」と「B:社外獲得重視」のどちらの方針に近いか聞いたところ、「Aに近い」(38%)と「ややAに近い」(43%)との合計が81%と、社内登用重視派の企業の割合が圧倒的に高いことが分かる。次に、次世代リーダーの選抜にあたって重視する点について、「A:計画的・体系的育成重視」と「B:実践による経験付与重視」のどちらに近いか聞いたところ、「Bに近い」(16%)と「ややBに近い」(53%)との合計が69%と、現場での経験的な育成を重視する企業の割合が高いことが分かる(図表1_2)。

【図表1_2】次世代リーダー育成・確保に関する方針

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

次に、「次世代リーダー候補選定の基準・次世代リーダーに求める役割」について方針を見てみる。候補選定の際に重視することについては、「A:実績年数・経験年数重視」と「B:潜在能力・学習意欲重視」のどちらの方針に近いか聞いたところ、「Aに近い」(16%)と「ややAに近い」(55%)との合計が71%と、実績や経験年数重視の企業が圧倒的に多いことが分かる。また、次世代リーダーに求めるリーダーシップタイプについて、「A:トップダウン型リーダーシップ」と「B:協調型リーダーシップ」のどちらに近いか聞いたところ、「Bに近い」(13%)と「ややBに近い」(46%)との合計が59%と、協調型のリーダーシップを重視する企業の割合がやや高いことが分かる。その他の項目の傾向を見ても、次世代リーダーに求められる役割・能力は多面的であり、より複雑化・多様化する経営環境に適応できる柔軟性を持つ人材が求められていることがうかがえる。(図表1_3)。

【図表1_3】次世代リーダー候補選定の基準・次世代リーダーに求める役割

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

現場に近い実務責任者の育成を重視、7割の企業で「部門長」を育成ターゲットに

次世代リーダーの育成において、どのようなポジションの人材を育成対象とし、どのようなポジションをターゲットとしているのかについて見てみる。
まず、「次世代リーダー育成のターゲットにしているポジション」については、「部門長」が最多で73%、次いで「事業責任者(執行役員)」が47%、「主要支社長・支店長」が17%などとなっている。多くの企業が部門長クラスを次世代リーダー育成の主要なターゲットと位置づけていることが分かる。また、上位3位までのポジションが全て現場に近い実務責任者であることから、企業が実践的な経験を重視し、現場でのリーダーシップ発揮を重要視していることが分かる。一方で、CFO(13%)やCTO(10%)、CHRO(9%)といった専門職の比率が相対的に低いことから、次世代リーダー育成において、役員層の一歩手前の事業責任者層レベルにターゲットを置くことで、より広範な経営管理能力の育成に焦点を当てている企業が多いことがうかがえる。(図表2_1)。

【図表2_1】次世代リーダー育成のターゲットにしているポジション

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

次に、「次世代リーダー育成対象者の現在の役職」については、「課長クラス」が最多で59%、次いで「部長クラス」が50%、「係長クラス」が43%などとなっており、多くの企業が中間管理職層を次世代リーダー育成の主要な対象としていることがうかがえる。一方で、「一般社員」も22%と無視できない割合を占めており、早期からの人材発掘と育成にも注力している企業が一定数存在することが分かる(図表2_2)。
早期から次世代リーダー候補として育成をすることで、優秀な若手人材の流出防止にも役立つことが期待されるだろう。

【図表2_2】次世代リーダー育成対象者の現在の役職

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

候補者のキャリアパス「複数部門を経験後、マネジメント層へ」が最多

「次世代リーダー候補者のスキル・特性として重視すること」については、「リーダーシップ・影響力」が最多で70%、次いで「コミュニケーション能力(社内外・グローバル)」が61%、「戦略的思考力・ビジョン構築力」が46%などとなっている。このデータから、企業が次世代リーダー候補者に対して、人を動かす力と効果的なコミュニケーション能力を最も重視していることがうかがえる。上位3項目が全て対人スキルや思考力に関連していることから、企業が技術的なスキルよりも、組織全体を牽引し、方向性を示す能力を重視していると考えられる。「組織・人材マネジメント」(44%)も高い割合を示しており、人材育成やチーム運営の重要性も認識されている。これらの項目に比べると「変革推進力・イノベーション創出能力」(21%)や「多様性への理解と活用力」(6%)はやや低い割合にとどまっている。これは、企業が現状の組織運営に重点を置いている可能性を示唆しているが、急速に変化するビジネス環境を考慮すると、これらのスキルの重要性は今後高まることが予想される(図表3_1)。

【図表3_1】次世代リーダー候補者のスキル・特性として重視すること

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

「次世代リーダー候補者選抜の方法」については、「上司・部門長からの推薦」が最多で68%、次いで「人事評価結果(業績評価・能力評価)」が50%、「経営層による指名」が33%などとなっている。組織内部からの評価や推薦を重視しており、日々の業務や長期的な実績を通じて候補者の能力を直接観察できる立場にある人々の意見を重視していることが分かる。一方で、より客観的な評価方法である「アセスメントテスト(適性検査)」(11%)や「360度評価」(8%)の利用率は比較的低い。図表3-1のように、数値化しにくい資質やリーダーシップの能力を重視する企業が多く、定量的な指標のみでの判断が難しいことから、直接的な観察や評価に基づいた判断を重視する企業が多いことがうかがえる(図表3_2)。

【図表3_2】次世代リーダー候補者選抜の方法

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

次に、「次世代リーダー候補者の多くが経験しているキャリアパス」については、「複数部門を経験後、マネジメント層へ」が最多で43%、次いで「特定分野のスペシャリストからマネジメント層へ」が39%、「営業部門でのライン管理職経験」が22%などとなっている。上位2項目が示すように、企業は多角的な視点を持つゼネラリストと、深い専門知識を持つスペシャリストの両方をリーダー候補として評価しており、複雑化するビジネス環境に対応するため、多様な経験と専門性を兼ね備えたリーダーの必要性を認識していることが分かる。また、「営業部門でのライン管理職経験」(22%)が3位に入っていることから、顧客との直接的なやり取りや収益責任を伴う実務経験が重視されていることがうかがえる(図表3_3)。

【図表3_3】次世代リーダー候補者の多くが経験しているキャリアパス

HR総研:「次世代リーダーの育成」に関するアンケート 結果報告

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HRプロとは

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「次世代リーダーの育成」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2024年7月22~29日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:215件

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1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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Eメール:souken@hrpro.co.jp

※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。

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