2019年5月29日にハラスメント規制法が成立し、企業にパワハラ防止策の実施が義務化された。そのひとつとして、相談窓口の設置がある。すでにセクハラ・マタハラ防止策として義務化されていたため、相談窓口自体はほとんどの企業で設置されているに違いない。しかし、実際に機能しているかというと、かなり不安な企業が多いはずだ。

そこで今回は、相談窓口が実際にハラスメント事案の早期発見、早期解決に結びつくようにするためのポイントをご紹介しよう。
ハラスメント相談窓口を機能させるための3つのポイント

相談窓口が機能しない原因とその解決策

経営者や人事労務担当者からすると、ハラスメントの被害を受けているという相談は、できれば来て欲しくないものだろう。窓口は設置したが、何ヵ月経っても、何年経ってもまったく反応がないとホッとするだろうし、そのまま何もないことを願うのも無理はない。

実際にハラスメントが起こっていないのならばそれでいいのだが、何らかの理由で相談窓口が利用されていないということも往々にしてある。ハラスメント相談窓口が使われない理由は、主に次の3点だ。

まず、従業員が「ハラスメント相談窓口の存在自体を知らない、どこに連絡したらよいか分からない」ということがある。

従業員にとっては、ハラスメント相談窓口の存在を一度は耳にしていても、その時特に問題がなければ、そのうち忘れてしまう。自分に被害が及んだ時に初めて「会社に相談窓口があったはず……」と思い出すのだが、どこに連絡したらよいか分からない。かといって誰かに尋ねると、相談しようとしていることがバレてしまうのでそれもできないのだ。

また、相談窓口の存在を知ってはいても、「会社を信用できない」という気持ちから相談をためらう場合もある。

もともと日本の労働者は、会社に苦情を言うこと自体に慣れていない。そのうえちょっとネット検索してみると、ハラスメントの被害を会社に申告してしまったがために、さらにいやがらせをされて職場にいられなくなってしまった、という話がいくつも出てくる。これでは、たとえ相談窓口があったとて、とても相談する勇気が出ないのだ。

さらにもうひとつ、「窓口の担当者を信用できない」などの理由から、そもそもハラスメントのことを他人に話しにくい、ということもある。

毎日顔を合わせている間柄なのに、こんな話をしたら翌日からどんな顔をすればいいのか、本当に秘密を守ってくれるのだろうか、あの人は基本会社の側の人だから、まともに対応してくれるわけがない……従業員がこのように考えている可能性もある。

社内でハラスメント事案が起こっており、人事担当者が「どうやら、あの人がパワハラしているらしい」と薄々知っていても、被害者からの申し出がない状態では、なかなか動きづらいものだ。

このような状態を長年放置していると、そのうち複数の従業員がだんだん元気をなくし、辞めてしまう。そして労働局からあっせんの通知が来たり、辞めた従業員から訴えられて裁判所から呼出状が届いたりする。

したがって、ハラスメント相談窓口が使われないことを安易に喜ぶのは早計である。被害者が自分から相談窓口に申し出てくれるというのは、実は事態が悪化する前に収拾するチャンスが会社に与えられるという意味で、とてもありがたいことなのだ。

ハラスメント相談窓口を機能させるためには?

では、きちんと機能するハラスメント相談窓口にするためには、どのようにしたらよいのだろうか。

まず、1点目は、「必ず複数のルートを作る」ということだ。

相談できる方法は、口頭、電話、メール、Webフォームなど、いくつか用意するとよい。できるだけ匿名性が守れるものを使おう。

また、担当者を複数にするというのも基本である。人事や総務の責任者を担当者にすると、たいていは中高年の男性なので、もうひとり女性でなおかつ年齢も若い従業員を任命する、というパターンが筆者が見た範囲では多い。

これで担当者が二人になり、性別、年齢層にも配慮がなされたことになるのだが、これでもまだ不足だ。人事労務担当だけではなく、別の部署にも窓口があったほうがよい。社長直属のセクションであれば、なおよい。

加えて、社内だけではなく、社外相談窓口を利用するというのもよい。特に規模の小さい事業所にとって、これは大きな意味を持つだろう。

2点目は、単純な話ではあるが「しつこいくらい何度も周知する」ことが必要だ。

入社時はもちろん、節目節目に相談窓口の連絡先を書いた周知文書を配布するようにしよう。カード型にして、携帯できるようにするのもよい。

ポスターなどの掲示も悪くないのだが、ずっと張りっぱなしでは、壁の一部になってしまい、あまり注意を引かない。掲示物が多い事業所ではなおさらだ。よって、ポスターを掲示するにしても、1年に1度は貼り替えるという手間はかけておきたい。

3点目は、「窓口担当者に研修を受けさせる」ということである。

相談を受ける担当者が、ハラスメントについての知識がなかったり、傾聴などの基本的な技法を身につけていなかったりすると、不適切な対応をしてしまい、かえって話がこじれることがある。それを防ぐためにも、「研修を受けた担当者がいる」という情報を積極的にオープンにしたい。

コストや手間の面で躊躇するケースもあるかも知れないが、相談してくる従業員の信頼を勝ち取るためにも必要なことなのである。

―― 以上3点が、ハラスメント相談窓口を機能させるために大切なことだ。気付いた時には収拾がつかない事態になっていた、ということがないよう、ぜひとも会社を挙げてハラスメント事案の早期発見、早期解決に努めていただきたい。
李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー

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