厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者の状況)」によると、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が39.3%、新規大卒就職者が31.8%といずれも高くなっています。
こうした早期離職は、求職者側と企業側の意識のズレ、いわゆる雇用のミスマッチによって生じます。そこで、今回は入社後のミスマッチを減らし、採用時のリスクを回避するための方法をお伝えします。
入社後のミスマッチを減らし、採用時のリスクを回避するための方法

採用後のリスク回避の方法

仕事柄、4月には新入社員研修に登壇するのですが、その際感じることは、すでに内定者同士の関係ができているところと、そうでないところがあるということです。

こうした違いは、入社前に、内定者同士や、内定者と会社とのつながりを持つ機会を設けたかどうかにあります。

内定者と入社前に何度も接触することで、内定者の不安が解消します。逆にその過程の中で、内定者が「合わない」と気づくこともあります。もし本当に合わないのなら、正式入社の前に内定辞退してもらうことも、採用リスク回避方法の一つです。

内定後、内定者と接触する方法として、下記の3つの手法をご紹介いたします。

(1)新卒採用の場合、内定者を集めて学生同士のつながりを作らせる
選考中は会社と個人とのやりとりなので、内定者は孤独です。新卒採用を実施する会社のほとんどは10月1日に内定式をしますが、年度始めなどの早い時期に内定承諾した人をそのままほったらかしにすると、急に辞退されたり、連絡が取れなくなったりと、さまざまなトラブルが起きやすくなります。

新卒採用の場合は、1~2ヵ月に1回、内定者を集める場を設けると、内定者同士の結束も深まり、リスク回避につながります。人は、接触時間よりも、接触回数を増やすことで親密度が高まるものです。

また、内定者にLINEグループなどを作成してもらい、仲間同士で情報を共有できる場を作ることも有効です。(ただし、内定者同士の結束を高めることは良い影響ばかりではなく、一人が辞めたという情報が流れると、辞退の連鎖が続く可能性も秘めています。)

(2)先輩社員(上司、役員)との質問会や職場見学会を実施する
採用担当者がどれだけ綺麗ごとを並べても、完全には信用されません。応募者は、選考中の間は、不合格になることを恐れ、本当に聞きたいことを聞けていなかったりします。「何かあればメールや電話で遠慮なく聞いてください。」と言っても、実際はなかなか聞けないものです。

ですから、直接会ってフランクに質問できる場を設けることで、入社前の不安を解消してもらうとよいでしょう。不安が全くないという応募者人はほとんどいないでしょうし、入社して欲しい人の不安を解消するために、企業側が努力することも必要です。

例えば、懇親会(飲み会)を開催すると、双方が非常に多くの情報を得ることができ、会議室で面談を実施するよりも何倍もの効果があります。
また、お互いが微妙な距離感の中での飲み会は、内定者のコミュニケーション能力を図る上でも有効と言えます。

ただし、懇親会等に参加する企業サイドの人選には注意が必要となります。一番の目的は会社の実情を知ってもらうことですが、同時に、内定者を引き止めることも大事な目的であることも忘れてはなりません。間違っても、企業側の参加者の酒癖が悪く、余計な一言を言ってしまったがために辞退者が続出、という事態にならないようご注意ください。

(3)数日間勤務してもらう
これは会社の規模が大きくなるほど導入が難しくなることが考えられますが、企業側にとっては、配属を考える上でも非常に有効な手段となります。なお、実施する際は、内定者のためを思っての提案であると感じてもらえるような伝え方を心がけてください。例えば、次のように伝えます。

「職場見学や、口頭で会社のことを説明するよりも、実際に勤務をしていただいたほうがより実情を体感できると思います。入社前の印象と、実際に勤務した印象にギャップがあると、短期での離職にも繋がり、お互いのためにもならないので、もし希望するのであれば数日間、職場で仕事をしてみるというのはいかがでしょうか?もし働いた結果、合わないと感じたのであれば内定を辞退されても構いません」

このように伝えて数日間勤務してもらい、大丈夫だと確信してもらえば、本人も安心ですし、その後、心変わりをして辞退に繋がる確率も減ります。

いえ、むしろこれは、お互いのためということで、内定を出す前に実施することがベストでしょう。

「試用期間」があるから必要ないと思われるかも知れませんが、入社後にミスマッチが発覚すると、双方が損失を被ります。(内定者側はそこから新たな就職先を探すことがより厳しくなり、会社側は人数制限のためにすでに他の方を不合格にした後かも知れません。)会社の情報を「体験」で与えることは、非常に分かりやすく有効な手段の一つです。

また、数日勤務をした後、内定辞退の申し出があった場合は、なるべく本人と直接話す機会を設け、その理由を聞くことが重要です。そこで聞き取った内容は、採用のPDCAサイクルを回すための最も貴重な情報源となります。

人事部の役割

このように雇用のミスマッチが起きないよう最善を尽くした上で配属しても、なかなか思い通りにはいきません。

最も大切なことは、新入社員を配属する現場の育成担当者や管理職を育て、新入社員が育つ環境を準備しておくことです。

仕事が難しくて辞める人はほとんどいません。離職理由の大半は、人間関係にあります。まずは、新人社員と良好な人間関係を築きましょう。

また、縁あって入社してくれた新入社員を育てることは、企業の永続的な繁栄のためにも必須です。価値観や優先順位の違いで育成に悩まれる方も多いと思いますが、忍耐強く、若手を育成していただくことを切に願います。

離職率を低下させる一番の要は、現場で育てる先輩社員の存在です。そして、人事部がすべきことは、ミスマッチのない採用と、すでに働いている社員の育成です。

どちらも簡単ではありませんが「企業は人なり」とも言います。人事部に与えられた使命として、“人を大切にする環境”をつくっていきましょう。

人を育てる人、を育てる。
採用定着コンサルティングOFFICE「サン&ムーン」
代表 社会保険労務士 田中亜矢子

この記事にリアクションをお願いします!