1年目に形作られる“2つのもの”とは
社会人1年目に極めて重要な意義があると言われるのは、その後、何十年と続く職業生活を大きく左右する『職業観』と『習慣』の基礎が形成されるからである。言ってしまえば、「仕事に対してどのような価値観を持つか」、「大人としてどのような生活習慣を身に付けるか」は、社会に出た最初の1年目でおおかた決まってしまうのである。
従って、最初の1年目で好ましい『職業観』や『習慣』を身につければ、職業人として一生の宝物になる。反対に、好ましくないものが身についてしまうと、職業生活に生涯、マイナスの影響を与え続けることになる。
社会人1年目で身につく『職業観』、『習慣』のうち、今回は『職業観』の形成について考えてみよう。
「頑張ることが“当たり前”」の『職業観』はどんな職場でも有用
『職業観』はさまざまだ。「仕事は頑張るものである」という職業観もあれば、「仕事はほどほどにこなせばよい」という職業観もあるだろう。もしも、社会人1年目で「仕事は頑張るものである」という考え方が身についた場合、その若者にとっては「仕事は頑張ることが“当たり前”」となる。反対に、「仕事はほどほどにこなせばよい」という姿勢が身についてしまうと、その若者にとっては「仕事は頑張らないことが“当たり前”」となってしまう。
「仕事は頑張ることが“当たり前”」との価値観を持つ人材は、どのような業種・職種に身を置いても、貴重な人材として歓迎されるものである。そのような人材は、組織への貢献度が高く、仕事のチャンスにも恵まれやすい。
しかしながら、「仕事は頑張らないことが“当たり前”」との価値観を持つ人材は、そうはいかない。そのような人材は組織への貢献度が低く、得てして「職場に良くない影響を与える人材」、「採用しなければよかった人材」と判断されてしまう。
誰の下で仕事を覚えたかが、若者の『職業観』を決定づける
では、社会に出たての若者の『職業観』は、何に影響を受けて形成されるのだろうか。もちろん生来の性格や家庭環境なども影響はしているだろうが、最も大きな影響を与えるのは、社会に出て初めて置かれた職場環境である。つまり、どのような『職業観』を持つ上司や先輩の下で仕事を覚えたかによるわけである。
「仕事は頑張ることが“当たり前”」との『職業観』を持ち、それを実践している上司や先輩の下で初めての社会人生活を送れば、通常、若者も同じような『職業観』を持ちやすい。
たとえば、「お客様により良い商品・サービスを提供するために頑張るのが、私たちの使命である」という強い意志を持って真摯に努力する上司、先輩に囲まれて育てば、その若者も、仕事をする上で「より良い商品・サービスを提供するにはどうしたらよいか」を一番に考えるようになる。
反対に、仕事はほどほどに、会社や同僚の愚痴ばかりを言っている上司や先輩の下で初めての社会人生活を送ると、その若者も、会社や同僚の粗探しばかりをするようになってしまう。そのような人材は、仮に職場を移ったとしても、会社や同僚の粗探しを止めることができない。一旦、身についたこうした『職業観』は、容易には変えられないからである。
『職業観』は「組織適合性」を左右する
このように見てくると、社会人1年目でどのような職場環境に置かれるかは、若者がその後、「どのような職場でも有用な、歓迎される人材になるか」、「どこに行っても職場に貢献しない、あまり歓迎されない人材になるか」の大きな“分岐点”であることが分かる。つまり、その人材の「組織適合性」の基礎が形作られてしまうわけである。これが、社会人1年目は極めて重要な意義があるといわれる1番目の理由である。その意味では、新卒1年目の社員を預かる部門の責任は、想像以上に大きい。
再三にわたり強調するが、次代を担う優秀な人材を育成するためには、若者に好ましい『職業観』を身につけさせられる職場環境が構築できているかがポイントになる。組織運営上、この点を決して忘れないよう心がけたいものである。
代表 大須賀信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)