労働契約法20条違反かが争われた2つの裁判
<2月15日大阪高裁判決>この裁判は、大阪医科大学の教室事務のアルバイト職員が、同じ業務にあたっている正職員との間に基本給、賞与などで格差があることは、労働契約法20条に違反するとして訴えを起こしたものだ。(※労働契約法20条=有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して不合理と認められるものであってはならない、としたもの。)
判決では、正職員は業務に伴う責任も大きく、あらゆる部署への異動の可能性があったが、アルバイト職員は定型的で簡便な業務が大半で、配置転換は例外的であったことなどが考慮され、基本給については、格差が約2割にとどまっていたこともあり、不合理ではないとされた。ただし、賞与に関しては、同時期に採用された正職員の賞与支給額の60%以上を企業側に支払うよう命じた。
<2月20日東京高裁判決>
こちらの裁判は、地下鉄の売店を請け負っている会社の有期契約社員が、基本給、賞与、住宅手当、賞与、退職金、永年勤続に対する褒賞、早出残業手当において、正社員との間に相違があることが、同じく労働契約法20条違反にあたるとして訴えたものであった。
判決は、基本給および賞与に関しては、職務内容や変更範囲などを考慮し、不合理ではないとした。一方、退職金に関しては、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1以上を支払うよう企業側に命じた。併せて、住宅手当、褒賞、早出残業手当についても、契約社員の主張が認められる形となった。
これら2つの判例を報道で知り、驚かれた方も少なくないと思われる。自社の有期雇用労働者にも、賞与や退職金を支払う必要があるのでは、と考えられたかもしれない。
しかし判決文を読むと、個別の事情が大きく絡んでおり、全ての企業にこうした判決が下されるとは限らない。
まず、前者の賞与の件だが、この大学の賞与は、夏期・冬期とも支給額が概ね定められており、従業員の年齢や業績に関わらず、基本給のみに連動していたことや、有期契約社員にも80%の賞与が支給されていたことから、賞与を支給すべきであると判断された。
次に後者の退職金に関してだが、この判決の要所は、契約社員にも正社員と同様に定年が65歳に定められており、かつ有期契約は更新されるのが原則となっている上、勤務期間も10年と長かったため、正社員の基準の4分の1以上の支払いが命じられたという点である。また、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的から無期契約労働者に対し退職金を設ける一方、短期雇用を前提とした有給契約労働者に対し退職金を設けないこと自体は、不合理ではない、としている点にも注目すべきである。
以上のように、それぞれの企業独自の事情があったからこその判決だったわけだが、裏を返すと、同様な賞与の規定や雇用契約をしている企業であれば、見直しを迫られるかも知れない。
同一労働同一賃金とは
働き方改革によって、今後、短時間・有期雇用労働者に対する不合理な待遇が禁止となる(いわゆる、同一労働同一賃金)。ここで言う不合理な待遇とは、「均等待遇」、「均衡(きんこう)待遇」が明確にされていないことを指す。「均等待遇」とは、職務の内容や責任の程度、異動や転勤の有無又はその範囲が同じであれば、正規、契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態に関わらず同じ、基本給や賞与、手当などの待遇は同じにしなければならないという意味である。
一方、「均衡待遇」とは、職務の内容や責任の程度、異動や転勤の有無又はその範囲などに差があるとするならば、その差の程度に応じた待遇の差にしなければならないということである。そして待遇に含まれるのは、主に基本給、賞与、各種手当、福利厚生や教育訓練といったものである。
特に各種手当については、正社員にはあって非正規雇用にはないといったケースは少なくなく、上記の東京高裁判決でも、住宅手当や褒賞が契約社員にないのは不合理とされたし、昨年6月のハマキョウレックス事件の最高裁判決でも、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当が契約社員にないのは不合理とされている。よって、各企業において注意が必要である。
同一労働同一賃金の施行は、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月からとなる。いずれにしてもそれまでの間に、正社員や契約社員、パートタイマー、アルバイトの仕事の内容をしっかり洗い出し、その職務の内容や責任度に応じた待遇がされているかを、確認しておく必要があるだろう。もし内容に見合った待遇がされていないのであれば、待遇を見直すか、非正規に必要以上に負担を強いることのないよう改善するなり、労使でしっかりと検討し、施行に備えていかねばならない。
スリープロス社会保険労務士事務所
代表者/社会保険労務士
葉名尻英一