スタートは4月ではなく、有給が付与されたとき
「2019年4月から、全ての使用者に対して『年5日の年次有給休暇の確実な取得』が義務付けられます。」厚生労働省が出している「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」というパンフレットの表紙に出ているのが、上記の文言である。
これを見たら、「2019年4月から1年間の間に、すべての労働者に5日の有給休暇を取得させなければならない」と勘違いしてしまうのも無理はない。しかしこれは大きな誤解だ。実際には4月から1年間とは限らない。
2019年4月以降、労働者ごとの有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に、会社は5日間の時季指定をしなければならない、というのが、この法改正で求められていることである。
労働者ごとに付与日がバラバラの会社であれば、スタートも当然バラバラになる。場合によっては、2020年3月に付与日がある労働者もいるだろう。そうした労働者人へのこの法律の適用は、来年3月の付与日からとなる。
ありがちな誤解はもうひとつある。それは、「すべての労働者に時季指定しなければならない」という思い違いだ。
労働者の側の時季指定権がなくなったことわけではなく、今までどおり、自分で有給をとりたい日を申請し、年に5日以上取得している人に対しては、会社として特に何もしなくてよいのである。
要するに、すべての従業員が例年有給を6割、7割の率で使用している事業所であれば、対策も必要ないというわけだ。
毎年どの程度有給を消化するかは、人によってかなり固定的になっているのではないだろうか。毎年すべて使い切る人もいれば、1、2日しか使わず、ほとんどが翌年に繰り越され、毎年時効で有給を捨ててしまう人もいる。
正しい解釈としては、会社は「例年5日未満しか使っていない人」に対し、必ず5日以上消化できるよう本人と相談して、時季指定すればいい、ということ。もちろん、従来からある計画年休の制度を利用してもよい。
パートタイマー、有期契約社員も対象になる
次に、5日以上取得が義務付けられた対象者についてだが、これは「年次有給休暇が10日以上付与される労働者」となっている。有給休暇を10日以上持っている労働者ではなく、繰越分も含まれない。いわゆる正社員であれば、入社6ヶ月後に8割以上出勤していれば、全員対象者だ。そして、有期雇用労働者もその対象者に含まれる。
たとえば、1年契約のフルタイムの有期雇用労働者であれば、法定通りの取扱いをしている会社では、入社6ヶ月後に有給が付与されてから1年後の雇用終了までに、会社が最低5日間を時季指定しなければならない、ということになる。
また、パートタイマーで比例付与されている人も、勤務年数が3年6ヶ月を超えていれば、一部対象者が出てくる。
パートタイマーについては、「会社から積極的に有給取得せよと言ったり、有給日数を通知したりしないが、申請があれば法律通り認める」というスタンスの会社を時折見かける。
その結果どうなるかというと、パートさんたちは「うちの会社はパートに有給を与えていない」と解釈し、自分から申請しようとはしなくなる。
会社側に、労働者に対して有給が付与されることや、その日数を通知する義務はないので、実は、上記のような扱いは法違反ではない。
しかし、パートタイマーの一部にでも「5日間取得義務」の対象者がいれば、消化のために意見を聞かざるを得ないし、他のパートタイマーについても、いままでどおり知らぬ振りを続けるわけにはいかないだろう。
この機会に、有給の付与について、パートタイマーや有期雇用労働者にもきちんと説明し取得を勧めるのが、会社への信頼感を増す方法だ。