いっそうの高齢化社会を迎える我が国において、介護職は今後もニーズが高まると容易に想像がつく。長く介護職で働きたい、という人が安定して従事し、専門職としてキャリアを深められる環境が整っているかについて、ベネッセスタイルケアの社内シンクタンク、ベネッセ シニア・介護研究所とパーソルグループの研究機関、パーソル総合研究所が共同で調査を行い、「介護人材の成長とキャリアの観点から見た、定着・離職のポイント」としてレポートを発表している。
調査は2017年12月27日~2018年1月5日、介護業界の離職経験者1,600人を対象にWebアンケートで行われている。
介護人材の成長とキャリアの観点から見た、定着・離職のポイント 長く働き続けるには「キャリアの見通し」が立つような成長の支援が必要

介護職の人材が、入社後どの程度定着しているのかをまとめたのが下図だ。
介護人材の成長とキャリアの観点から見た、定着・離職のポイント 長く働き続けるには「キャリアの見通し」が立つような成長の支援が必要
これによると、離職した介護職のうち、61%が3年未満に離職していた。また、1年以内での離職者が多く、早期離職が課題であると言える。

そして、離職した介護職の55%が他業界(無職を含む)へ流出しているが、介護職への明確な復職意向がある人は6%。条件次第で復職してもよいと考えている人が52%いることが明らかになった。

介護職で離職した人の理由を調べており、全体の21.3%が「給与の低さ」、17.3%が「キャリアの見通しのなさ」を挙げた。
介護人材の成長とキャリアの観点から見た、定着・離職のポイント 長く働き続けるには「キャリアの見通し」が立つような成長の支援が必要
これら2つの離職理由と在籍期間を照らし合わせると、入社後1年を過ぎると、給与の低さやキャリアを不安視するようになる様子が見てとれる。特に、キャリアの見通しのなさにより離職する人の割合が大きく増えている。

重回帰分析により「給与の低さ」と「キャリアの見通しのなさ」を挙げた要因を調べている(下図)。各項目についての見解をレポートから紹介する。
介護人材の成長とキャリアの観点から見た、定着・離職のポイント 長く働き続けるには「キャリアの見通し」が立つような成長の支援が必要
▼「給与の低さ」
単純に低いことが問題であるというよりも、成長やキャリアとの関係性のなかで問題視されていることが分かった。したがって、介護職の能力・仕事ぶりをきちんと評価し、給与にも反映することが、介護職が長く働き続けることにつながると考えられる。

▼「キャリアの見通しのなさ」
「仕事内容が変わらず、飽きてしまった」、「ロールモデルがいない」といった職場要因が影響を与えていることが分かった。成長を実感できるような環境を整えるためにも、ロールモデルがいない現状を是正することが求められる。

「給与の低さ」、「キャリアの見落としのなさ」における、離職理由と人間関係の関連性については下記のように考察している。

▼「給与の低さ」
周囲の人が話を聞いてくれなかったことが最も関連していた。

▼「キャリアの見通しのなさ」
ホーム長・施設長やリーダー・主任といったマネジメント層との関係性が関連していた。前述のように、これには「ロールモデルがいない」ことも影響しており、例えば、ベテランスタッフがロールモデルとしての役割を担うことなどが有効であると考えられる。

現在、介護業界で働いていない元介護職について、『希望する復職条件(複数回答)』を複数回答で聞いている
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最初の設問で示したように、離職した介護職の52%が「条件によってはまた介護職で働きたい」と考えているが、その復職条件としては、「給与・報酬」が51.2%で最多。

しかしながら、そのうちの80.9%は他の条件も挙げており、介護職経験者を介護業界へ呼び戻すには、給与・報酬の改善を前提としながら、働きやすい職場づくり、環境づくりも不可欠であることがうかがえる。

これら分析結果を受けた本調査における提言は、以下の通り。

「キャリアの観点から見た介護職の職場定着の鍵は、専門職としての深化に向けた仕事面での成長支援、および、仕事ぶりの承認である。

キャリアと連動した給与体系の見直しに加えて、職場内の上位層や相談相手などからの十分な評価やフィードバックの機会を充実させ、「キャリアの見通し」が立つように成長を支援していくことこそが介護職が長く働き続ける上で必要である。」

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