いわゆる「労災」とは業務上災害をいい、労働者が就業中に業務が原因となって起こった事故を言う。休憩時間中の事故等は就業にあたらないので業務災害とはならないが、トイレなどの生理的行為については、会社の支配・管理下で業務に付随する行為として取り扱われるので、この時に生じた災害は就業中の災害と同様に業務災害となる。
これに対して通勤災害とは、労働者が通勤途中に負った事故を言う。この場合、通勤とは、(1)家と会社(住居と就業の場所)との間の往復、(2)2社以上で働いている場合のA会社からB会社への移動、(3)単身赴任先と帰省先の住居の間の移動を、合理的な経路及び方法で行うことを言う。映画館に入る、同僚と飲酒をするなどは、通勤経路からはずれ、通勤も中断されているため通勤として扱わないので、会社帰りに寄った映画館からの帰途で事故にあっても通勤災害とはならない。
冒頭のように通勤途中に雪で転倒した場合、会社に報告すると、会社で届出書を作成し管轄の労働基準監督署に届け出を行う。労働者はかかった病院が労災指定病院であれば通勤途上の事故であることを告げると、健康保険と異なり自己負担金がなく治療を受けられる。労災指定病院でない場合は、一旦は全額を負担しなければならないが、後から支給を受けられる。
通勤に関して最近多い質問は、友人宅やホテルに泊まって、会社に出勤するときは通勤災害が適用されるか、というものだ。通勤災害が適用され、補償を受けるためには、労働基準監督署に認定してもらうという大前提があるが、一般的な判断としては業務上の必要性があったかどうかということが重要だ。
自分の都合で友人宅やホテルに泊まってそこから出勤する場合に事故にあっても通勤災害にはならない。「通勤」とは「就業に関して住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復すること」をいい、友人宅やホテルは「住居」ではないからだ。しかし、同様の場合でも雪のために出社できなくなることを回避する目的で、会社と相談したうえで宿泊したとなると、業務上の合理的理由があるので通勤災害となるだろう。
また、一駅手前で電車を降りてウォーキングするような場合は、健康増進に水を差すようで心苦しいが、これも通勤ではなく趣味、自由時間なので、通勤災害の適用にはならない。一方、人身事故やダイヤ遅延などで会社の最寄り駅まで行くより一駅手前で下車して歩くような場合は業務上の必要性があったということで通勤災害になる、というように考えると良いだろう。繰り返しになるが、あくまでも通勤災害かどうかは会社や個人の判断によるものではなく監督署の認定による。
雪の日対策として日本野鳥の会が販売しているバードウォッチング用のレインブーツが売り切れで入手が難しいそうだ。一人ひとりが防災意識を高めて安全な靴を履くなど事故を防ぐようにすることは大切だ。3.11も近い。雪に限らず、台風など自然災害の際には会社は終業時刻を繰り上げるなどの配慮を臨機応変にしていきたい。
HRプロスクール 講師 富山節子
(株式会社ブレインコンサルティングオフィス 取締役)