社長 「そんなはずは……ちゃんと8時間超と40時間超で計算していますよ」
監督官「ほら、こことか……」
社長 「え?そう計算するのですか?」
これはある日の労働基準監督署の調査(臨検監督)での一コマである。労働基準法(以下、労基法)では1日8時間、週40時間を法定労働時間と定めていて(一部保健衛生業など例外あり)、これを超えて時間外労働させると割増賃金の支払いが必要になるが(労基法32条、37条)、その法定時間外労働(以下、時間外)のカウントミスが指摘された場面である。
時間外計算の力試し問題
時間外については、「8時間と40時間を超えた分を足せばいいだけでしょ。間違えようがないよ」と思われる方も多いかもしれない。しかし、そんなあなたは本当に、時間外の計算を正しくマスターしているだろうか。力試しに次の3つの事例問題を用意してみた。(なお、変形労働時間制は採用していないものとする。)
【問題】次の4週間の時間外は何時間か(数字は実労働時間)
10時間-8時間=2時間 ∴時間外は2時間
それでは次の問題。
(7時間×6日-40時間)×4週=8時間 ∴時間外は8時間
では、次のケースはどうだろうか。これに明快に答えられれば、時間外の計算はマスターしているといってよいだろう。
〈第1週〉 8時間超:0+0+1+7+0+7=15時間 …(1)
40時間超:(7+7+9+15+7+15)-40=20時間 …(2)
40時間超(8時間超分除く)(2)-(1):5時間 …(3)
〈第2週〉 8時間超:0+0+0+0+2=2時間 …(4)
40時間超:(8+8+8+6+10)-40=0時間 …(5)
40時間超(8時間超分除く)(5)-(4):なし
〈第3週〉時間外なし
〈第4週〉時間外なし
(1)+(3)+(4)より、時間外は22時間
正解できただろうか。
時間外のカウントを正しく行う3ステップ
時間外のカウント方法を3ステップでまとめると次のようになる。【STEP1】
1日8時間超の時間数をカウントする…A
【STEP2】
1週40時間超の時間数(Aの時間数を除く)をカウントする…B
【STEP3】
AとBを足す
賃金計算期間の一つひとつの週を、この3つのステップで丁寧に検証することが、正しい計算方法なのである。
念のために、ありがちな間違いを挙げておこう。
(1)8時間超しかカウントしてない
(2)40時間超しかカウントしていない
(3)時間外の計算だけ変形労働時間制のような形をとっている
この間違い(3)について上記上級編の事例で説明すると次のような計算方法になる。
172時間(総実労働時間)-160時間(法定40時間×4週)=12時間
やり方を間違うと、正しい時間外の22時間より、10時間も少なく計算されてしまう。その他の(1)、(2)の場合も同様に、計算結果は正しい時間外より少なくなり、結果として未払いの割増賃金が発生することになる。
理解不足や事務負担の問題から、厳密な時間外の計算ができていないケースは往往にしてある。御社ももしかすると、知らず知らずのうちに、未払いの割増賃金が発生しているかも知れない。できれば定期的に、社内監査等を実施する機会を設け、確認してみてはいかがだろうか。
出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎