従業員に利用を促せば、将来の年金受給額を増やせたり、納付した期間が不足して年金を受給できなかった人が年金受給資格を得られる場合がある国民年金の「後納制度」。期間限定の救済措置として設けられていたこの制度が、いよいよ本年9月30日で終わりの時を迎えようとしている。果たして、まもなく終了する「後納制度」とはどのような制度だったのだろうか。
【2018年9月30日で終了】 従業員に教えたい国民年金の「後納制度」

“時効”を迎えた保険料が特別に納められる「後納制度」

国民年金の第1号被保険者の保険料は、納付期限が翌月末日と決められている。たとえば、平成30年9月分の保険料であれば、同年10月末日が納付期限とされる。しかし、実はこの納付期限を過ぎてもさらに2年間は保険料の納付が可能であった。つまり、平成30年9月分の保険料は、実際には平成32年10月末日まで納付ができる仕組みとなっていた。

しかしながら、納付期限から2年を過ぎると“時効”で納めることができず、保険料の未納が確定することになる。保険料を未納にした月が多ければ多いほど、将来の年金収入も少なくなってしまう。ところが、期限から2年を経過して、本来であれば時効で納められないはずの保険料が特別に納められる救済措置が設けられてきた。これが「後納制度」である。

これを利用して時効を迎えた未納の保険料を納めておけば、将来は期限どおり保険料を納めた人と全く同じ計算方法で年金額が決定されるという優れた制度であった。

「後納制度」は、過去10年以内の時効で納められなくなった保険料を特別に納められる制度として、平成24年10月1日にスタートした。ただし、時効を迎えた保険料を納められるというのは本来の姿ではないため「3年間限定の救済措置」とされ、平成27年9月30日で終了となった。

ところが、その後「後納制度」は過去5年以内の時効で納められなくなった保険料を特別に納められる制度にリニューアルされ、平成27年10月1日から「3年間限定の救済措置」として再スタートを切ったものである。そしてその終了が、平成30年9月30日であり、もはや秒読みとなったわけである。

企業勤務者にも「後納制度」の利用対象者は多い

国民年金保険料というと「自営業者が納めるもの」という印象があるかもしれない。そのため、「後納制度」は会社勤めをしている人には関係のない制度だと思われがちだが、必ずしもそうとは言えない。

たとえば、中途採用で企業勤務をしている社員の中には、新しい職場が決まる前に以前の職場を辞めているケースがある。この場合、その社員の履歴にはどこの企業にも勤めていない期間が生まれるが、その期間についても国民年金保険料の納付義務が存在する場合がある。しかしながらその義務を怠っているケースが少なくない。

また新卒採用者の中には、20歳以降の国民年金保険料の納付義務があった学生期間に、納付を猶予してもらう制度を利用していない場合があり、保険料の納付義務を怠っているケースがある。

このように、現在、企業勤務をしている人の中には、過去の国民年金保険料を納めるべき期間について納めていない月があるというケースが散見される。このような期間について保険料を納められる、言わば“最後のチャンス”がこの「後納制度」なのである。

当時の保険料額より“多い額”を納めることも

「後納制度」の利用時に納める保険料は、当時の保険料額が基礎になる。たとえば、現在の保険料額は1ヵ月あたり16,340円だが、もしも平成28年度の未納の保険料を「後納制度」で納めようとした場合には、平成28年度当時の保険料額である1ヵ月あたり16,260円を必要月数分だけ納めることになる。

ただし、平成27年度以前の保険料を「後納制度」で納める場合には、当時の保険料よりも“多い金額”を納めなければならない。具体的には次のとおりである。

【後納保険料の月額】
平成28年度…16,260円→(加算額0円)→16,260円
平成27年度…15,590円→加算額170円→15,760円
平成26年度…15,250円→加算額340円→15,590円
平成25年度…15,040円→加算額540円→15,580円

たとえば、平成25年10月分の保険料を未納にしている人が「後納制度」を利用して保険料を納める場合、当時の保険料である15,040円に540円を上乗せした15,580円の納付が必要になる。当時の保険料額に3.5%程度の利子を付けて納めるようなイメージである。この点だけを考えると、「後納制度」の利用者は少し損をするような印象がないではない。

「後納制度」は、時効を迎えているにもかかわらず保険料が納められ、なおかつ将来は期限どおり保険料を納めた人と全く同じ計算方法で年金額が決まるという制度であった。そのため、それだけでは期限どおりに保険料を納めた人との公平性を保つことができないので、あまりに時間の経った保険料納付には一定の加算が求められてきたわけである。

6年間にわたって運用されてきた「後納制度」が終了すると、時効を迎えた保険料は納めるすべがないという、ある種、本来の姿に戻る。

繰り返すが、企業側から見れば、「後納制度」は、企業負担を発生させることなく社員の年金を増やせる最後のチャンスである。制度の利用申込みは9月28日(金)で終了なので、ぜひ社員に利用を呼び掛けてもらいたいものである。

コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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