翌月末日までに納めなくても督促されない
通常、企業に納付が義務付けられる厚生年金保険などの社会保険料の納付期限は、翌月末日と定められている。そのため、翌月末日までに保険料を納付しない場合には、2~3週間後に督促状が送られてくる。そこには、指定期限という新たな期限日が記載されており、その指定期限までに保険料を納付しないと、本来の納付期限にさかのぼって延滞金が発生する仕組みである。ところが、今回の豪雨災害を受けて7月19日付で厚生労働省告示が公布され、災害救助法が適用された市区町村の中の一部の地域に所在する企業に対して、7月5日以降に到来する社会保険料の納付期限が延長されることになった。期限が延長されたのは、厚生年金保険料、健康保険料(全国健康保険協会の管掌分)、子ども・子育て拠出金などである。
つまり、6月分の保険料を7月末日までに納付しなくても督促を受けることがなく、延滞金も発生しないことになる。7月分以降の保険料についても、当面の間は納付期限が延長されているので、翌月末日までに納付しなくても問題が起こらない。このように納付期限が延長されたのは、以下の地域に所在する企業である。
【企業の社会保険料納付期限が延長された地域】
岡山県:岡山市のうち北区・東区、倉敷市真備町、笠岡市、井原市、総社市、高梁市、小田郡矢掛町
広島県:広島市安芸区、呉市、竹原市、三原市、尾道市、東広島市、江田島市、
山口県:岩国市周東町
愛媛県:宇和島市、大洲市、西予市
制度運用上の3つの留意点
厚生年金保険料などの納付期限を延長する仕組みは、被災企業にとって非常にありがたい支援策といえよう。しかしながらこの仕組みには、いくつかの留意点も存在する。(1)被災していない企業も口座振替納付ができなくなる
保険料の納付期限が延長されたのに伴い、新しい期限日が決定するまでは、保険料の口座振替も一切行わないことが合わせて決定されている。そのため、仮に被災をしていない企業であったとしても、当面の間は口座振替による保険料納付がまったく行えなくなるという問題が生じる。
従ってそのような企業は、当面の間、社会保険料を金融機関の窓口で現金で納付しなければならない。被災をしていない企業にとっては、新たな事務負担が発生することになってしまう。
(2)当面、新しい納付期限は分からない
さらに、納付期限がいつまで延長になるのかは、現在の時点では決まっていないという問題もある。現時点では新しい期限が分からないので、企業から見れば「いつまでに納めないと督促が行われるのか」が分からず、極めて不安定な状況が当面、続くことになる。
新しい納付期限は被災地の復興状況を考慮の上、決定されるものである。そのため、期限を延長した時点では、新しい期限を知る術(すべ)がない。ちなみに、2年前の平成28年4月に発生した熊本地震の時にも保険料の納付期限延長措置が取られたが、新しい期限日が発表されたのは震災から半年後であった。今回の豪雨災害に伴う新しい納付期限の決定・発表にも、相応の時間が掛かるものと思われる。
(3)災害救助法適用地域に所在する全ての企業の納付期限が延長されたわけではない
実は今回、災害救助法の適用地域に指定されながら、保険料の納付期限延長措置の対象にならなかった市区町村が多数存在する。そのような地域に所在する企業の場合は、6月分の保険料は7月末日までに納付しないと、仮に被災をしていても、8月中旬に督促状が届いてしまうという問題がある。
しかしながら、そのような地域に所在する企業であっても、管轄の年金事務所に申し出ることにより、個別に保険料の納付を猶予してもらうことが可能である。保険料の納付猶予とは納付期限を過ぎた保険料について、個別の事情を考慮して支払いを待ってもらえる制度である。希望すれば保険料の口座振替を止めてもらうこともできる。
大規模災害時には、多くの行政機関でさまざまな支援体制が設けられるものである。被災企業ならびに被災された方々には、制度を十分にご活用いただき、一刻も早い復興を心から願うばかりである。