企業が社員に対して実施する小論文試験に「思考能力」のレベルが測れるという特徴があることは、4月3日付HRプロニュース「『小論文試験』で何が分かるのか」で論じたところである。今回は「ライティング能力(文章力)」のレベルを測れるという、小論文試験のもう一つの大きな特徴について考えてみる。
「小論文試験」で何が分かるのか 第2回

文章が書けないビジネスパーソン

*前回記事はこちらから:「小論文試験」で何が分かるのか

業種・業態を問わず、「ライティング能力」はビジネスパーソンに必須のスキルである。しかしながら、昨今、「ライティング能力」に問題を抱えるビジネスパーソンが非常に多いようである。管理・監督職の社員であるにもかかわらず、わずか数行の文章をビジネスパーソンとして恥ずかしくないレベルで記述できないケースさえ見られる。なぜ、このような事態に陥ってしまったのだろうか。

企業ではさまざまな教育研修プログラムが利用されているが、「ライティング能力」の向上を目的としたカリキュラムは、あまりないかもしれない。しかしながら、ひと昔前であれば、上席者が若手社員の記述したビジネス文書を徹底的に添削指導する光景が、大手企業を中心に多くの企業で見られたものである。

そのような中で若手社員は、自身が記述した文章を何度も繰り返し直され、「ライティング能力」を鍛え上げられた。つまり、「ライティング能力」はOff-JT(Off the Job Training)ではなく、れっきとしたOJT(On the Job Training)の中で鍛え上げられるものだったのだ。

しかし、書くことを生業とする一部の業種などを除き、徐々にOJTの中で上席者が後輩社員の「ライティング能力」を徹底的に指導する場面は見られなくなってきているように思える。また、歴史の浅い企業の場合には、そもそも「ライティング能力」を指導できるレベルのベテラン社員が存在しない。そのため、社会に出ても「ライティング能力」を鍛えられることのなかった若者たちが増加し始めた。

それゆえ当然のこととして、そのような若者たちが管理・監督職になった現在、若手社員のビジネス文書を添削指導しようにも、指導する側にスキルがないのだ。これが、各企業が直面している現状であろう。多くの企業が「ライティング能力」の劣化の悪循環に陥り始めているわけである。従って、昇級・昇格試験として「ライティング能力」のレベルを測定することは、非常に重要な取り組みといえる。

「簡潔に分かりやすく書くスキル」を測れる小論文試験

ビジネスパーソンに求められる「ライティング能力」とは、決して難しい文章を書くスキルではない。言うなれば、予備知識を持たない人が“1回”読んだだけで理解できる文章を書けるような「ライティング能力」、つまり、文章を簡潔に分かりやすく書くスキルである。そこで重視されるのは、たとえば次のような項目である。

1.主語と述語を正しく対応させること。
2.正しい助詞(てにをは)を使用すること。
3.文章同士の因果関係に応じた「接続詞」を使用すること。
4.文章同士の因果関係に“不明確さ”を残さないこと。
5.不必要な表現の使用による“冗長性”を発生させないこと。
6.文長が長過ぎないこと。
7.使用する語彙・表現に起因する“文意の不明確さ”を発生させないこと。
8.書き言葉に相応しい語彙・表現を使用すること。

小論文試験ではこのような項目の習熟度が測れることになる。つまり、単に「文章が上手いか」だけでなく、はるかに多要素で高度なスキル判定が可能となるのだ。

ただし、評価する側が高度なスキルを習得していない限り、企業内で「ライティング能力」を精緻に判定するには困難が伴う。社員の小論文に対し、「何となく良い」「何となくいまひとつである」などの印象は持てたとしても、その習熟度の観点は前述1から8のように多岐に渡る。

また、社内で評価する場合は、日常業務で頑張っている社員に気をまわしてしまい、記述レベルが低いにもかかわらず評点を高くしてしまうなど、評価の客観性が保てないという問題が発生することも少なくない。従って、「ライティング能力」を評価する際は、外部機関の活用を検討することが望ましいといえる。

「思考能力」と「ライティング能力」はビジネススキルの両輪である。この2つの能力が総合的に確認できるのが、小論文試験の大きな特徴といえる。小論文試験は一般のビジネスパーソンが思っているよりも、はるかに高機能な能力判定手法なのである。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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