パーソルグループ(人材総合サービス)の総合研究機関 株式会社パーソル総合研究所は、「希望の残業学プロジェクト」と題し、日本企業で常態化している残業問題について、東京大学の中原淳准教授と共同研究を行った。2018年2月8日、同研究所は、様々な業界・業種の会社員6,000人を対象とした、残業実態調査に基づくプロジェクトの結果を発表。残業が多い業界・職種や残業発生のメカニズムを明らかにしたほか、残業施策を成功させるためのポイントを示した。
残業施策の効果を最大化するには~東京大学 中原准教授「希望の残業学プロジェクト」研究結果

希望の残業学プロジェクト 実施の背景

まず、同研究所の代表取締役社長を務める渋谷和久氏が、プロジェクト実施の背景について説明した。日本でフルタイムの一般労働者の平均残業時間が、直近の20年間で高止まりとなっている現状を踏まえ、「企業は長時間労働に適合できない介護者・女性・外国人の中の優秀人材を取りこぼしている」と指摘。その上で「深刻な労働人口減少に直面する日本において、長時間労働が人材確保の障壁になっている」と問題視した。

プロジェクトの狙いについては、残業時間削減のみを最終目標とせず、生産性・意欲・健康といった「組織コンディション」の向上と並立、そしてこれまで重視されてこなかった労働慣習など、ソフト領域にも着目することとした。

日本の残業の実態が大規模調査で明らかに

続いて、プロジェクトリーダーの中原氏が、プロジェクトの結果を発表した。2017年10月にインターネットを通じて実施された、様々な業界・業種の会社員6,000人(メンバー層5,000人、上司層1,000人)を対象とする大規模な残業実態調査のデータ等に基づき、分析を行ったものだ。その結果、月に30時間以上残業する人の割合が多い業種・職種は、以下の通りであった。

【メンバー層・業種】
1位:運輸・郵便業(37.7%)、2位:情報通信業(32.1%)、3位:電気・ガス・熱供給・水道業(32.1%)
【メンバー層・職種】
1位:配送・物流(46.8%)、2位:商品開発・研究(41.5%)、3位:IT技術・クリエイティブ職(39.0%)

【上司層・業種】
1位:建設業(54.2%)、2位:製造業(51.7%)、3位:運輸・郵便業(50.0%)
【上司層・職種】
1位:商品開発・研究(65.2%)、2位:専門職種(61.9%)、3位:生産・管理・製造(56.1%)

中原氏は「企業における残業施策のしわ寄せとして、上司が部下の負担をかぶって残業を増やし、働きすぎる傾向がある」と指摘。特に上司層では、複数の業種で繁忙期の月平均残業時間が50時間を超えるなど、過酷な勤務実態が明らかとなった。また、残業発生の要因も分析し、最も残業時間を増やす職務の特性は「突発的な業務が頻繁に発生すること」だとした。

残業発生のメカニズム

では残業とは、いかにして発生しているのか。中原氏は、「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」という4つの要素が連鎖することによって、悪循環のメカニズムが生まれていると分析した。

●集中
スキルの高い優秀な社員や、残業施策のしわ寄せで部下に残業を頼みにくくなった上司層に、残業が集中する。

●感染
職場内の同調圧力により、帰りにくい雰囲気が蔓延。若い世代ほど帰りにくさを強く感じており、それは上司の残業時間が長いほど増幅する。

●麻痺
長時間労働によって「幸福度は高いが、食欲がない」「就業満足度は高いが、ストレスが高い」など、価値・意識・行動の不整合が生じる。自覚症状は希薄ながら心身の健康被害を生じたり、突然休職したりといったリスクがある。

●遺伝
新卒時に長時間労働の習慣に染まり、部下に受け継がれる。「残業は当然」という感覚は、転職して組織を移動しても変わらない。

特に注目すべきは、「麻痺」で起こる現象だ。残業時間が「月60時間以上」のラインを超えると、不思議なことに幸福度や会社への満足度は上昇する。しかしその一方で、健康リスクは極めて高くなる。残業なし層と、残業時間が月60時間以上の層を比較すると、「食欲がない」は2.3倍、「強いストレスを感じる」は1.6倍、「重篤な病気・疾患がある」は1.9倍となっている。

また、残業時間が月60時間以上の層は、60時間未満の層と比べて、現在の勤務先で働き続けたいという気持ちは低く、働くこと自体を辞めようと思う割合が、他の層よりも高くなっている(18.6%)。このように、正常な判断や論理的な一貫性を失っていることが「麻痺」であると、中原氏は説明した。

残業施策の成功は告知・コミットメント・実施期間が鍵

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