Aさん 「もしもし、あっ部長、お疲れ様です。」
部長 「ちょっと聞いてみるんだが、○○の件はどうなってる?」
Aさん 「それなら……」
部長 「度々すまないね。頼んでいたあの書類はどこかな?」
Aさん 「明日提出する予定ですが。」
部長 「ちょっと今日必要になってね、何とかならないかな、FAXでもいいから。」
Aさん 「はあ……」
社労士として労務相談をお受けしていると、職場内で揉めるパターンというのはだいたい決まっていることがわかる。解雇や年次有給休暇などはその代表選手であるが、労働者側からの苦情として意外と多いのが「休日にゆっくり休めない」という意見である。
携帯電話がすっかり普及してしまったおかげで、上記Aさんのように休みでも職場から簡単に連絡が取れてしまう時代になってしまった。休みの日に職場から仕事の電話がかかってきてゲッソリした経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。
さて、この「休日に仕事の電話(以下単に“電話”と記す)」という行為、法律上はどう捉えるべきだろうか。
まず「休日」の定義についてであるが、国家公務員の一般職職員について定めた「一般職勤務時間法」に、休日とは「勤務時間を割り振らない日」とあるくらいで、他に特に休日の定義について定めた法律はないようである。しかし、労働日を労働する義務がある日と考えれば、休日は労働義務のない日であり、仕事から完全に解放されている日であると考えるのが自然だろう。言い換えれば、使用者側は労働者を労働させる権利を有しない日である。そのような日に電話に出ることを義務付けることはもちろん、上記部長のようにFAXをするように命じることは合理性がない。場合によっては、それらの時間は労働時間としてカウントされる可能性もある。(行政解釈S22.9.13発基17号)
しかし、経営の現場はそう簡単に割り切れない。やむを得ないケースも存在する。例えば休んでいる人が一定の職位以上で重要な職務上の責任を負っており、処遇についてもある程度それにふさわしいものを受けている場合は、むしろこうした電話にも対応する義務があると言えるかもしれない。
私は社労士になる前に飲食店の店長をしていたことがあるが、休日に店から電話がかかってくることはよくあった。私は休みの日はしっかり休みたかったので、前日までに必要なことは全て終わらせるように段取りをするようになった。また、自分の不在時の対応について、予想されるケースについてはあらかじめ指示や体制を作るようにした。こうした工夫でかなり電話が減ったと記憶している。
このことから休日に仕事の電話が頻繁にあるようなら、それは仕事の進め方、オペレーション、役割分担、従業員教育等、業務改善が必要だというサインであると言えるかもしれない。
一方、上司から部下への電話となると少々事情が異なる。私の経験上、電話魔の上司はほぼ100%嫌われる。「上司は嫌われてなんぼ」とは言うが、人格や資質を疑われるのは良くない。職場内の支持率が低下し、上司として機能不全を起こしてしまっては重大な経営問題である。休日の部下に電話をする前に「この電話は本当に今でなければならないか」「他に対応方法はないか」を考えてみるのも必要かもしれない。また、「休み中申し訳ない」「昨日は電話してすまなかったね」等気遣いの言葉も大切だろう。
現実的に、休日の電話を完全に排除することは不可能である。必要だから電話をするのだ。しかし過ぎたるは猶及ばざるが如し、物には限度がある。やり過ぎにはくれぐれも注意したいものである。
出岡社会保険労務士事務所 出岡 健太郎