平成24年に改正された労働契約法では、その第18条で有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込により、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)が成立したものとみなされる無期転換制度が規定された。改正法は平成25年4月1日から施行されているので、原則として来る平成30年4月1日以降に無期転換権が発生することになる。

この制度へ適切に対応するためには、過去・現在・未来にわたる諸制度に関する基本的事項を理解しておくことが必須となる。なぜなら、働き方改革をはじめ雇用・労働法制が大きなうねりの渦中にあり、これらを見据えて対応しなければならないからだ。
本稿では、各企業が無期転換制度を考えるにあたって理解しておくべき主なポイントについて解説することとする。
有期労働契約の無期転換制度は簡単ではない

労働契約法の性格

まず、労働契約法とはどのような法律なのか?この法律は平成20年3月1日に施行されているが、労働契約に関する基本的事項を、従来からの判例法理を成文法化することにより、労働に係る民事紛争の解決を図るという基本的性格を持っている。労働基準法が、労働契約の最低基準効を定め、罰則をもって当事者の履行を担保しているのに対し、労働契約法は個別労働関係紛争を解決する私法領域の法律なのである。民法の特別法として位置づけられるため、労働基準監督官による監督・指導は行われず、刑事罰の定めもない。また、労働行政法ではないため行政指導の対象ともならない。

従って、本法に違反しても、誤解を恐れずに言えば、民事上の紛争が生じなければ適用されることのない法律なのである。もちろん、逆に対応を怠れば、民事訴訟で大変な目に遭うことになるわけだが。

これらの点を踏まえておかないと、行政からの事前の規制が及ばないため、個別労働紛争が起こってからでは手遅れという事態を招きかねない。今回の無期転換制度も、この労働契約法の性格・特徴を理解することから始めなければならない。

みなし有期労働契約とは

次は、労働契約法第19条に定められている「有期労働契約のみなし更新」についてである。これは、形式的には有期労働契約であっても、一定の場合には雇止めが許されず、当該契約が更新されたものとみなす、という制度である。この規定は、「東芝柳町工場事件(最小判S49.7.22)」及び「日立メディコ事件(最小判S61.12.4)」という有名な判例を法律化したものである。

具体的には、
(1) 有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合
(2) 有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、労働者の合理的期待が認められる場合
には、有期労働契約の雇止め(契約更新拒否)が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、当該契約が更新(締結)されたものとみなすという規定である。

この場合の「みなされる」というのは、使用者の「雇止めの意思表示」に対して、労働者が「異議を唱えたり」「雇用継続を希望したり」すれば、それが有期労働契約の申込とされ、その申込に対し使用者は承諾したものとされる、という理論構成がされている。この場合の労働者の申込は、いわゆる形成権といわれるものである。

企業によっては、有期労働契約だから漏れなく期間満了で雇止めできるだろう、と考えがちだが、概ね9割以上の有期労働契約が「みなし更新」に該当する可能性が高い。もちろん、労働契約法の規定を素直に適用すればの話だから、これを無視することは企業の勝手ではある。そのかわり、民事紛争で雇止めが無効と判断されてしまうという爾後のリスクは自ら負担しなければならないのは言うまでもない。

従って、自社の有期労働契約の実際の運用をつぶさに検証し、果たして「雇止め」のリスクの有無を図っておくことが肝要である。仮に、不適切な運用をしていれば、確実にみなし更新が適用され、労働者に無期転換権が与えられるが、企業はそれに対応する制度構築ができていないという由々しき事態に陥ることになる。

同一労働同一賃金と無期転換制度

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