タレントマネジメントシステムという言葉を聞かれたことがあるだろうか?企業が持つ従業員の様々なデータ~氏名、年齢、住所、職歴といった基本情報から、その人の持つ能力(タレント)、適性、スキルなどの情報~をデータベース化して一元管理し、育成、評価、適正配置などに活用することで、人材の効率利用、活性化に役立てるというものである。
タレントマネジメントシステムは日本で普及が進むか?

 では、いわゆる人事管理システムとは何が違うのか。
 一般的に言って従来型の人事管理システムは、まさに「管理」の視点に重心があり、従業員の基本データをきちんと管理・把握することが主な機能である。そこにはデータを活用して社員を活性化するという視点はなく、「静的」なイメージがある。

 一方、タレントマネジメントシステムは、人材の「管理」よりも「活性化、有効活用」の視点が強く、「動的」なイメージが強い。また、一部の管理者だけがデータを活用するのではなく、従業員自身が活用し、自分の適性に合った仕事ができモチベーションを高める役割も期待されている。

 また、グローバル化の進展、ITツール・ソーシャルメディアの仕事への活用、ビッグデータの活用の広がりといった点も、タレントマネジメントシステムの一層の普及を後押ししている。国籍、性別、年齢などの関わらず多様な人材を能力面で公平に評価し活用することがより求められてくるし、日々蓄積される様々な最新情報に基づいた人材データを可視化し活用することで、最適な組織体制をシミュレーションすることが可能になる。

 さて、こう言うと良いことずくめなのだが、タレントマネジメントシステムは日本企業ではまだあまり導入が進んでいないのが現状だ。HR総研の調査結果(2013年3月)では、1000人以上の従業員規模の企業で、人事管理システムの導入は8割近くだが、タレントマネジメントシステム導入は8%に過ぎない。ただし、導入検討中が21%に上っているので、関心が高いことは間違いない。ただ、躊躇している企業が多いのが現状である。

 なぜか。第一に、人事部門にITリテラシーが高い人が少なく、適切な判断ができないことが挙げられる。大企業では一般的に言って人事部門は閉鎖的で静的な部門のイメージ強く、情報システム部門と仲が良いという話もあまり聞かない。新しいものを導入することにそもそも慎重である。

 また、日本企業の人事管理の仕組み、カルチャーが、タレントマネジメントシステム発祥の欧米系企業のそれとは違うために、そのままでは使えないという印象も持たれている。もちろんカスタマイズすればいいのだが、それが簡単ではないという噂もある。そうした声を受けて、和製タレントマネジメントシステムも数多く生まれているが、導入が大いに進んでいるかと言えばそうではないようだ。

 導入した企業が使いこなせていないという噂も出回っていて、それがより慎重にさせていることの原因でもあるようだ。確かに、ITリテラシーの低い人事担当者だと、使いこなせないことは十分あり得るだろう。システムサービスについてすべて言えることだが、システムは単なる箱であり、いかに便利といえども、明確な目的と使いこなすスキルがなければ、無駄な投資に終わってしまう。

 さて、では日本ではタレントマネジメントシステムの普及は進まないのだろうか。私は進むと思っている。時期の問題はあるだろうが、確実に進むだろう。なぜか。

 いまやあらゆる職種の仕事はITを通じて進められるようになっており、人事部門だけがその例外ではありえないし、そのようなITを活用する従業員を人材として把握・活用するためにタレントマネジメントシステムは有効である。ITの進化は日進月歩であり、そこで蓄積されるビッグデータも膨大な量になる。これをいかに活用できるかは、今後企業にとって人材活用の重要なキーになるだろう。

 さらに、タレントマネジメントシステムのユーザビリティが格段に良くなり、普通の人事の人にも使いやすくなってきている点も挙げられる。初期導入費も以前に比べれば下がっているし、目的に応じた使い方でスモールスタートも可能になってきている。

 もちろん、導入後の試行錯誤はあるだろうし、そもそも従業員がちゃんと入力してくれるのか、管理職が使いこなしてくれるのか、人事のITリテラシーは十分なのかといった問題もあるだろう。それでも、トライアンドエラーで、その企業に合った「型」を作っていけばいいのだと思う。その試行錯誤を恐れてはいけないし、失敗から学ぶことも多いはずだ。

 ただし、まずは導入の目的と成果目標をはっきりさせることは重要だ。人材育成なのか、最適配置なのか、適正評価なのか、生産性向上なのか、組織改革なのか。優先順位を決め、出来るところから取り組めばよい。ちなみにHR総研の調査では、導入目的は「人材育成」(76%)、「人材配置の最適化」(68%)、「適正評価」(42%)、「サクセッションプランの遂行」(32%)、「人材採用」(16%)、「プロジェクト編成」(13%)などとなっている。

 いまや業績に資するための業務管理、生産管理、営業管理、財務管理などはITの進展とともにどんどん進化している。人事管理だけが基本的な管理にとどまっていていいはずはない。


HRプロ 代表/HR総合調査研究所 所長 寺澤康介

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