先日ご相談を受けたお客様からこのように話を切り出された。
「せこいことをいたしますが」の意味である。
今回の一連の東京都知事の話題は毎日のように上っている。東京大学を卒業し、大臣も務め、前回の都知事選挙を圧勝で当選したほどの人物が、政治資金流用疑惑等で激しく非難を浴び、ついに辞職となった。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
あなたの職場にも潜んでいる「公私混同」の可能性
これについて新聞等報道では「公私混同」との批判が多いようである。公務(仕事)とプライベートのけじめがないことを公私混同と言うのであるが、だとするとこの問題は何も某都知事だけの問題ではないだろう。例えば、日々我々が務める職場においても様々な公私混同が潜んでいるのではないだろうか。ここは一つ、この機会に我が身や自社の状況を振り返ってみるのも有意義なことであろう。以下に挙げるような事例に該当するかしないか、セルフチェックがてらお読みいただければ幸いである。
①会社の備品を私物化
これは公私混同の最たる例と言えよう。某都知事は公用車で温泉地の別荘に行って非難されたが、同様に社用車を個人的な用事で使用したり、会社の消耗品等の備品を自宅に持ち帰ったりしていないだろうか。これらの行為は単に公私混同と批判されるばかりでなく、場合によっては横領罪や窃盗罪にもあたる可能性がある。重大な問題行為である。
②会社の経費を不正支出
報道によると某都知事は仕事と関係があるとは言い難い「宿泊費」「飲食代」「ブランドバッグ」「日用品」「趣味に関する品々」等々の支出をしていたようである。自社でも同様の不適切な支出をしていないだろうか。高額なものではなくても、文房具等ちょっとした物の場合だと軽い気持ちで起こりがちである。また、会社の経費をごまかすような行為も同種のものと言える。例えば、電車通勤と偽って自転車で通勤して交通費を不正に受け取ったりする行為がこれにあたる。会社のお金を不正に自分のものにすれば泥棒である。某都知事も大臣時代に「牢屋に入ってもらいます」とコメントしている。
③勤務時間中に私的行為
国家公務員法に次のような規定がある。
『職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。…以下略』(同法第101条1項)
いわゆる職務専念義務であるが、この義務は労働契約を結んだ民間の労働者においても同様に発生すると解される。就業規則で職務専念義務を明記している会社も多い。「仕事の時間は仕事をしましょう」というごく当たり前の話であるが、残念ながら現場では次のような行為も起こりがちである。「私語で盛り上がる」「パソコンで仕事をしていると思ったらゲーム中」「私用の電話やメール」「タバコ休憩」……等々。勤務時間中にこれらの行為に耽ることは紛れもなく公私混同であり改善を要するが、上記①②と違って罪の意識が希薄なことが多く、サービス残業の代償として捉えられているケースなどもある。このため改善のための取組みが難しいのも特徴である。
④その他一見分かりにくい公私混同
「社内恋愛(不倫)で勤務中にいちゃつく」「プライベートのイライラを職場の人にぶつける」「強引に飲食に誘う」「気に入った人だけえこひいき」「気に入らない人には挨拶もしない」「好き嫌い人事」等々、公私のけじめができていないという観点から、これらの行為も公私混同の事例として挙げられる。これらは直ちに法違反や就業規則違反とはならないかもしれないが、「違法ではない」と強調した某都知事のその後を鑑みればどう処するべきか明らかであろう。
このように、公私混同はちょっとした気の緩みや甘えなどから誰にでも陥る危険性のあるものなのである。某都知事を非難している人も同じ穴のムジナかもしれない。今回の事件を他山の石として、今一度襟を正したいものである。
社会保険労務士 出岡 健太郎