部下の妊娠、出産そして育児は、上司にとって頭の痛い問題ではあるが、急病やケガ、そして急な退職に比べれば、報告を受けてからかなりの時間がある分、しっかり対策をとることができる。女性活躍推進法ができ、マタハラという言葉が一般的になるなど、出産育児をする従業員がいることを織り込んだ労務管理を行うのが世の中の流れであり、管理職としての腕の見せ所だ。
では、具体的にどのような対策をとればよいのだろうか。
体調の変化は十人十色、密なコミュニケーションを
まず前提として、妊娠中、育児中の従業員にはこのようにすればよい、という大きなくくりで考えないことだ。妊娠中の体調の変化ひとつとっても、つわりがひどく入院してしまう人から、ほとんど不調を感じない人までさまざまだ。妊婦だから、必ずしもいままでと同じ仕事ができないわけではない。
もっとも、いままでが長時間労働やハードワークだった場合は、本人と相談の上、ある程度仕事を軽減することを考えたほうがよい。だが、それ以外の場合、特別扱いは、逆に本人の精神的な負担になったり、他の部下が反発したりすることがある。
ひとつ注意しなければならないのは、妊娠の経過による体調の変化は、本人にも予測がつかないということだ。初めての妊娠出産はもちろん、二人目三人目であっても、前回と同じ経過をたどるとは限らない。本人が「だいじょうぶ」といったん判断した仕事であっても、やっているうちに「やっぱりムリだった」とわかったり、急に体調を崩してしまうこともある。
上司としては、「最初はだいじょうぶと思っても、途中で調子が悪いようだったら、遠慮なくいつでも言うように」という一声をかけておきたい。
育休から復帰後も、本人だけではなく、子供の体調や保育の状況、どこまで家族などのサポートがあるかで、仕事に使うことのできる時間やエネルギーはまったく違ってくる。このあたりも、個人的なことではあるが、業務上必要な内容なので、しっかりヒヤリングしておこう。
どの程度までできるのか、逆に心身の負担になっている点はなにか、こまめに話を聞くようにすることが大切だ。
つまりは、いままで以上に、コミュニケーションを密にする必要がある。そうすることによって、産休・育休をとる社員の不安を減らし、業務へのモチベーションを維持することができることも、重要なポイントだ。
引継ぎマニュアル作成で指導するポイント
では、産休・育休をとる部下に対しては、ひたすらやさしく気遣っていればよいのか、というとそうではない。休みに入るにあたっては、要求すべき点がある。要求とは、マニュアル作成である。
休業するのだから、引継ぎのためにマニュアルを作成するのは当然のことと思われるかもしれないが、次の3点を意識して作成するように指導したい。
まず1点目は、作成する本人が、自分の仕事を見直し、いまより短い時間で同じ業務量がこなせるよう、効率化できる点はないか、考えることである。これには、一度内容を洗い出すというマニュアル作成が効果的だ。
2点目が、上司が仕事をわりふるのに参考になるよう、インフォーマルに引き受けている仕事も含めて、すべて書き出すということ。できれば、所要時間もわかるとよい。勤務期間が長くなると、上司も部下の仕事の全貌を把握していなかったりする場合がある。休業中に、自分がこなしていた仕事をいくつかに分けて、他の従業員で分担する場合は、とくにその点を意識して作成するように指導する。
3点目は、残された同僚に、誠意を伝えるよい方法だということである。
妊娠出産にあたって、仕事に支障が出ないか、とくに同僚に迷惑がかからないか、というのは当然本人も考えている。そして、後ろめたい気持ちを持っている場合も少なくない。しかし、「周りに申し訳ない」という気持ちがあれば、それは仕事で表すべきだ。
自分がいない間、そして、早めに退勤したりするときに、同僚が困らないよう、考えられることはすべて説明しておく。イラストが得意であれば、図も多用するとよいだろう。
このようなマニュアルを作成すると、かなりの量になってしまうが、たとえば妊娠3ヶ月ごろに報告を受けたとすると、9ヶ月で休むまで、半年近い時間がある。マニュアル作成、引き継ぎの予定を最初から考え、計画的にこなすよう指示しよう。これも、当人のスキルアップのためのによい経験になるだろう。
メンタルサポートろうむ代表
社会保険労務士/産業カウンセラー/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント
李怜香(り れいか)