耳障りな「させていただく」「なので」
たとえば、「させていただく」という表現がある。最近、何かにつけて文末に「させていただく」という言い回しを付けて話す方が多いように感じる。「今日は新しい営業資料を持参させていただきました」
「先日、御社のホームページを拝見させていただきました」
などの使い方である。恐らくは、「させていただく」という言い回しを文末に付けることで、「より丁寧さを増した表現になる」と解釈してのことと思われる。
しかしながら、本来「させていただく」という表現は、自分の行動に対して「相手が許可をする」という行為が伴う場合に用いるものである(文化審議会答申/敬語の指針)。前述の「新しい営業資料を持参すること」も「ホームページを見ること」も、特殊なケースを除けば「相手の許可」が必要な行為ではない。従って、
「今日は新しい営業資料を持参いたしました」
「先日、御社のホームページを拝見いたしました」
と言うのが、適切な言葉の使い方といえる。「相手の許可」が伴わない行動に対してまで「させていただく」を付けてしまうと、非常に耳障りな表現になるので、注意が必要である。
また、文章の最初に「なので」という言葉を付けて話す方も、非常に増えている。たとえば、<b>
「午後から雨が降りそうだ。なので、傘を持って営業に出よう」
「来月、ゴルフコンペがあるんです。なので、今週末はゴルフ練習場に行こうと思っています」
などの使い方である。つまり、「なので」という用語を接続詞として使用しているわけである。
しかしながら、「なので」という用語は接続詞として使用する表現ではなく、「~なので」というように、前にある用語に続けて使用する表現である。たとえば、
「午後から雨が降りそうなので傘を持って営業に出よう」
と使用するのが、「なので」の適切な使い方になる。
どうしても2つの文章で表現したいのであれば、「だから」「ですから」などの接続詞を使うとよい。たとえば、
「午後から雨が降りそうだ。だから、傘を持って営業に出よう」
「来月、ゴルフコンペがあるんです。ですから、今週末はゴルフ練習場に行こうと思っています」
とすると、違和感のないスマートな言葉遣いになる。
テレビの影響が大きい現代人の言葉遣い
言葉遣いはテレビの影響を最も大きく受けるといわれている(文化庁/平成26年度国語に関する世論調査)。テレビで放映されるインタビュー映像を注意深く見てみると、芸能人・スポーツ選手などがやたらと「させていただく」を連呼していることに気付く。婚約会見などで「このたび○○さんと結婚させていただくことになりました」などと話しているタレントの姿を、皆さんも一度は見たことがあるだろう。言葉を生業とするアナウンサーでさえ、フリートークの場面で「なので、私は犬より猫のほうが好きです」などと話すケースがみられる。長年、そのような映像を見て育った若者たちが入社をすれば、当然、必要以上に「させていただく」を連呼する、「なので~」と使用するなど、ビジネスの現場で違和感のある言葉遣いが常態化してしまうわけである。
もちろん、言葉は時代の流れとともに用途・用法が変化をするものである。時代とともに使われ方が変化した結果、「市民権を得た新しい言葉遣い」も少なくない。しかしながら、言葉の新しい用途・用法が認められるには、長い時間が必要である。従って、新しい使われ方が市民権を得るまでは「誤った用途・用法」と理解して、少なくともビジネスの現場では使用しないほうが賢明である。
言葉遣いに関する教育というと、入社時に「敬語の使い方」の基本を教えるだけという企業が多いようである。しかしながら、「言葉教育」が必要なのは、決して新入社員だけではない。取引先、エンドユーザーなど外部の利害関係者とコミュニケーションをとる機会が多い職場の場合には、「誤った言葉の使い方」をする社員が社会人としての資質を疑われ、結果として企業経営に大きな影響を及ぼすことがあるのも事実である。社会人にふさわしい言葉遣いができているかは、定期的に点検をすることが必要といえる。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)