令和6年4月から施行となった「改正労働条件明示のルール」では、すべての労働者に就業場所と業務の変更範囲を明示することを求める。特に就業場所については、“今後就業場所となる可能性のある場所”も含まれる。それに伴い、企業が事業成長や人材育成を目的に行ってきた転勤という人事慣行も変わりつつある。エン・ジャパン株式会社は、2024年4月8日~16日に「転勤に関する意識」についての調査を実施し、1,039名から回答を得た。本記事はその調査結果をもとに、働き手の転勤に対する考えや退職意向との関連性を確認する。
“転勤の辞令”に約7割が「転職・退職のきっかけになる」と回答。若手ほど“共働きや育児”への影響を考慮する傾向が顕著に

約7割が転勤の辞令で「退職」も検討。20代と女性の割合が特に高い傾向

NTTの転勤廃止やニトリHDのマイエリア制度など、企業方針として転勤制度を見直す動きが出てきている。その背景には「テレワークの普及」と「若手を中心に転勤を敬遠する風潮」があり、採用や人材定着面でも転勤の是非は問われている。



本調査で、エン・ジャパンはまず「転勤の辞令が出た場合、退職を考えるきっかけになるか」をたずねた。すると、「なる」が44%で「ややなる」が25%となり、合計69%と全体の約7割が「転勤の辞令が退職意向に関連する」との考えを示した。さらに、この結果を年代別で比較すると、「20代」は計78%、「30代」は計75%、「40代以上」は計64%となっており、若年層ほど転勤に強い抵抗感があることがうかがえた。また男女別では、「男性」が計62%、「女性」が計75%と女性の方が13ポイント高く、転勤を回避したい意向が強いことがわかる。
転勤に伴う退職意向の有無(年代別)
また、男性と女性で回答結果を比較すると、「転勤の辞令が退職意向に影響する」と答えたのは「男性」が計62%、「女性」が計75%と女性の方が13ポイント高く、女性の4人中3人は転勤を望んでいないことがわかった。
転勤に伴う退職意向の有無(男女別)

3割が“転勤が理由”で退職した経験あり

では、実際に転勤を理由に退職を決めた人はどの程度いるのだろうか? 同社は、過去に転勤の辞令を受けたことがある人を対象に「転勤を理由に退職したことがあるか」をたずねた。その結果、「退職したことがある」は31%、「退職しなかった」は69%となり、転勤による退職はおおよそ3人に1人の割合で発生していることがわかった。
転勤を理由とした退職経験

7割強が「家賃補助や手当が出る」ことで転職を承諾。経済支援が最大のポイント

次に、同社が全員を対象に「もし転勤の辞令が出た場合どう対処するか」と質問すると、「承諾する」が8%で、「条件付きで承諾する」が42%、「条件に関係なく拒否する」が21%となった。

そこで、「条件付きで承諾する」と回答した人に「どのような条件があれば承諾するか」とたずねると、最も多かったのは「家賃補助や手当が出る」で72%となった。以下、「リモートワークが可能」(51%)、「昇進・昇級がともなう」(45%)が続いた。
転勤の承諾条件

転勤を拒否する理由は「家族/ライフスタイルへの影響」が上位に

他方で、「条件に関係なく拒否する」と回答した人にその理由を訊いたところ、「配偶者の転居が難しいから」が40%でトップだった。次点以降は、「持ち家があるから」(34%)、「子育てがしづらいから」(29%)、「親の世話・介護がしづらいから」(28%)となっている。
転勤を拒否する理由
調査結果では、約7割が「転勤の辞令を受けた場合には退職も検討する」と答え、特に20代や女性において、転勤を回避したい傾向が顕著となっていた。近年、就活時の企業選びでも転勤がない企業が人気を集めるなど、転勤制度が人材の定着や獲得に悪影響があるとも言われている。他方で、全国に拠点がある大企業や銀行・証券・保険などでは、不正防止の観点から「転勤やジョブローテーションが必要」とされている業界もある。しかし、共働きが当たり前となった昨今、育児や介護にも取り組む世帯では、転勤がライフスタイルに与える影響も大きい。企業には個人の働き方にも配慮し、人材を定着させるための対策が求められていると言えるだろう。

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