同じ個人であっても、問題の内容や状況によって、選ばれるコーピング方法はさまざまだ。また、人によって得意な方法があったり、逆にほとんど用いられない全く別の方法があったりするなど、様々なパターンが見られ、そのようなパターンをコーピング特性と言う。
自分のコーピング特性を知ることによって、ストレス対処の引き出しを増やすことができ、ストレスとうまくつきあうことができるようになるのだ。
ストレスコーピングの6つの分類
ストレスコーピングの分類方法は様々だが、ここでは、次の6つを考えてみたい。(1) 積極的問題解決
ストレスの原因に直接焦点をあてて、問題を解決しようとする方法。この方法が得意な人は、「責任感が強い」「できる人」という評価を得ることも多いが、がんばっても解決できない問題に直面した時には、疲れきってしまうことにもなりかねない。
(2) 問題解決のための相談
(1)と似ている部分もあるが、(1)は問題をひとりで抱え込むやり方であるのに対して、他人に頼って解決しようとする方法である。とくに職場では、周りの力を借りることは必要なスキルであるが、一面では他人任せで無責任という評価にもつながってしまう。
(3) 視点の転換
柔軟な発想で、問題をさまざまな方向から眺めたり、問題の解釈の方法を変えることで、打撃を弱める対処方法。自分に都合のいい解釈に頼ることで、問題自体に取り組まずにすまそうとするという面もある。
(4) 気分転換
趣味に没頭したり、スポーツやレジャーなどで、とりあえず気分転換を図る方法。重要な対処方法のひとつではあるが、問題解決を先延ばしにするだけなく、発散する行為に頼り過ぎると、アルコール依存症など別の問題につながることもある。
(5) 他者を巻き込んだ情動発散
(2)のように問題解決のために助言を求めるのではなく、周りの人に愚痴をこぼしたり、やつあたりをするなど、情緒的な支援を求める方法である。
(6) 回避と抑制
問題をとりあえず先送りしたり、なにもせずじっとがまんしたりするなどの対処方法である。
ひとつ注意したいのは、ただがまんしてつらいときが過ぎるのを待ったり、他人に感情をぶつけたりする方法が望ましくない、というわけではないということだ。
なにが適切なコーピング戦略かは状況によって異なる、ということを理解しておこう。
ストレスコーピングの知識を活かすための方法
上の6つの分類については、自分がどの方法をよく用いるのか、簡単に判定できる質問用紙があり、タイプ別のアドバイスも用意されている。(「BSCP(勤労者のための)コーピング特性簡易尺度」職場のメンタルヘルス|東京都労働相談情報センター)このように、「ふだんどのような対処法を選ぶことが多いか」という自分のタイプを知ることから、「どのような対応をもっと増やすとよいか」を考え、選択肢を増やしていくことができる。
また、次のような方法もある。
まず、「最近あったたいへんな状況」を想定し、そのとき自分がどう対応したかを思い出してみる。そして、上の6 つの分類を参考に、「別の方法をとったとしたらどうなっただろうか」を検討して、より労力がかからなかったり、リスクが少ない方法を探すのである。
もちろん、そのような検討を行ったら、それで終わらせるのではなく、その後なにか強いストレスがかかる状況に遭遇した時に、いままでは使って見なかった方法を試してみて、その効果を感じてみる、という実践が必要だ。
また、上記のような方法を職場のメンタルヘルス研修に取り入れ、グループワークでそれぞれの対応を話し合うことも、6 つの分類の効果的な使い方である。
ストレスコーピングの引き出しを増やし、そしてバランスよく使えるようになることは、多少のストレスがかかっても、それに押しつぶされないようなしなやかな心を持つ大きな助けとなるだろう。
※参考文献:「勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(BSCP)の開発:信頼性・妥当性についての基礎的検討」(影山隆之、小林敏生、河島美枝子、金丸由希子/産業衛生学雑誌第46巻4号)
メンタルサポートろうむ代表
社会保険労務士/産業カウンセラー/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント
李怜香(り れいか)