中小企業ではまだまだ少なく、実際に介護することになった社員が、フルタイムの仕事がままならなくなり、退職したいと申し出てきてから、やっと社員の介護の実態に気づく、というところがほとんどではないだろうか。
『介護離職ゼロ』は実現可能か
先日、安部首相が唱え、マスコミでも盛んに取り上げられている『介護離職ゼロ』果たしてそれは実現できるものなのだろうか?
まずそもそも、なぜ介護が始まると離職しなければならなくなるのだろう?
介護していても、会社を辞めず、介護と仕事を両立させるにはどうしたらよいのだろうか?
これまでは在宅の主婦など、女性の配偶者が介護者になることが多かった。
しかし、少子化や独身者の増加により、今後は『男性の介護者』が増加し、だれもが人ごとでなく、介護のことを考えなくてはならなくなってくる。
特に『男性の介護者』は会社では主要なポストやポジションの人間であることが多く、彼らが休職から退職となった場合、中小企業への打撃はとても大きい。
今回から6回、中小企業において、『介護が必要になった(なる)社員にどのように対応したらよいか』、特に『男性の介護者』に重点をおいて考え、具体的な対策を提案していきたい。
1)安倍晋三首相の介護離職ゼロとその対策とは
9月24日、安倍首相は「介護離職ゼロを目指して、介護施設の整備や、介護人材の育成を進め、在宅介護の負担を軽減する」「仕事と介護が両立できる社会づくりを、本格的にスタートさせたい」との考えを表明した。
介護離職ゼロにするために、特別養護老人ホームを建設するようだ。これまで小規模の介護サービスの形態から特別養護老人ホームへ大きく舵をきることになり、この政策がどれだけ介護離職を食い止めるに効果があるかは時間がたてばわかるだろう。
2)そもそも、なぜ介護離職しなければならないのか?
「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」(平成24年度厚生労働省委託調査)によれば、介護離職する以前は、『身体介護、声かけ・見守り、家事、買い出しやごみ出し等の日常的な活動』を、『年次有給休暇の消化、半日・時間単位の休暇、遅刻・早退・中抜け』等でなんとかやりくりしているようだ。
一般的に社員は、「自分が介護をしていることを職場に知られること」に対して、とても抵抗を感じている。「会社に相談したところでどうにもならない」、「自分のキャリアにひびくから相談できない」と考えている。特に大企業では、育児・介護の際に家族を優先したために、転勤・昇進・昇格をさせない理由にされることもある。
このように、職場の人事担当者やケアマネージャーに相談せず、社員が介護の悩みを一人で抱え込んでしまい、結局、介護離職せざるを得ない現実がある。中小企業では、社内の相談体制が整っておらず、介護サービスの内容も知らずに介護離職になっているという現実がある。
3)どうすれば、介護離職から社員を守れるのであろうか?
まず、会社は、社員が介護離職を決断してしまう前に、
『中高年はキャリアの再開が難しいこと』、『早期に退職することで生涯年収が減少すること』、『介護のみの生活は経済的にも精神的にも大変になること』ということから『介護離職はしない』ように社員に強く伝える必要がある。
『会社は介護をしている社員を応援するので、仕事を続けるよう』にはっきり宣言するのである。
4)どのように『社員への応援』をしていけばよいのだろう?
40歳代以降になると、近い将来の介護の不安を抱えた社員が増えてくる。
仕事と介護の両立の仕方がそもそもわからないので、社員が不安になっているケースも多い。これは『情報がないこと』『やったことがないこと』『どこから手をつけたらよいかわからないこと』『親の病状は予測不能で、自分はどのような立場をとったらよいかわからないこと』などがある。
しかし、ここで発想を転換してみてはどうだろうか。
これまでの業務をこなす上で培ってきた『ビジネスの思考のプロセス』で、あえて介護を考えてみてはどうだろう?
問題点・課題点はなにか、どのような対策をとったらよいか、どのような効果が考えられるか。そのような発想から介護生活を予測し、『介護と仕事を両立させる』という目標達成のために、方策を考えるのである。会社は社員を介護離職させないために、社員本人は働き続けるために、お互いに最良の方法を考えていく、新しいプロジェクトを始めていこう。
会社は、『介護になる前の支援』と『介護している社員への支援』の両面から視点が重要だ。男性社員特有の行動や思考から対策を考えていくことにする。次回以降、具体的に対策について考えてみたい。
ふくすけサポート社会保険労務士事務所
社会保険労務士 産業カウンセラー 仕事と介護コンサルタント
森大輔