【ESとROE】ESとROEには正の相関が見られる。ERがAとDの企業で約15.6ポイントの差
経済産業省が2020年に発表した人材版伊藤レポートでは、企業の経営戦略と人材戦略の連動の重要性を提唱しており、「人的資本経営」への関心が高まっている。また、東京証券取引所では2023年4月にPBRが低迷する企業に対して、改善策を開示・実行するよう要請も行っており、企業価値向上の一つとして人的資本への投資にも注目が集まっている。こうした中、人的資本投資の重要項目の一つである「従業員エンゲージメント」と、投資指標である「ROE」、「ROIC」、「PBR」には関係があるのだろうか。なお、本調査は、人が組織に帰属する要因を従業員エンゲージメントファクターとして16領域に分類し、従業員の会社に対する「期待度」と「満足度」の2つの観点で質問を行った。回答者は5段階で回答を行い、その回答結果からエンゲージメントの偏差値である「エンゲージメントスコア」(以下、ES)を算出している。
はじめにリンクアンドモチベーションは、「ESとROEの関係性」を調査した(ROEは、「自己資本からどの程度効率的に利益を生めたのか」の指標)。すると、ESが高い企業ほどROEが高いことが示唆され、「ESがとROE」に正の相関が見られることがわかった。
また、ESを一定の範囲ごとに分類したエンゲージメント・レーティングのことを「ER」として「ROE」との関係性を見たところ、ERがDの企業(-0.1%)とAの企業(15.5%では、ROEに約15.6ポイントの差があることが明らかとなった。
【ESとROIC】ESが高いほどROICも上昇。ERがDとAの企業で約13.4ポイント差に
次に同社は、「ESとROICの関係性」を調査した(ROICとは、投下資本からどの程度効率的に利益を生めたのか」の指標)。その結果、ESが高い企業ほどROICが高いことがうかがえ、「ESとROIC」にも正の相関が見られることが判明した。また、ERがDの企業(4.6%)とAの企業(18%)では、約13.4ポイントの差があることがわかった。
これを受け同社は、“ESとROE・ROIC”の正の相関について、「同様の資本を投下したとしても、従業員のエンゲージメントが高いほど、その資本をより効果的に活用し収益につなげられる可能性が高まると考えられる」と考察している。
【ESとPBR】ESが高いほどPBRも高い傾向に。ERがAの企業では8割が「1」を上回る
最後に同社は、「ESとPBRの関係性」について調査を行った(PBRとは、株価が企業の資産価値に対して割高か割安かを判断するための指標)。すると、ESが高い企業ほどPBRが高いことが示唆され、「ESとPBR」に正の相関が見られることが明らかとなった。また、ERがDの企業は全てPBR「1」を割っている一方で、ERがAの企業では80%がPBR「1」を上回っていることがわかった。
これを受け同社は、“ESとPBR”の正の相関について、「投資家に対して人的資本投資が進められていることが伝わり、将来的な収益性に対する期待が醸成できていると考えられる」との見解を示している。