「チューター制度」の導入により、新入社員のみならず職場全体の定着率が向上
「チューター」とは、企業における新入社員の教育担当で、業務内容を中心に教える人のことを指す。障がいのある新入社員は、仕事や環境に慣れるまでの負担感により心身の変調が現れやすい傾向にある。こうした障がいのある新入社員のチューターになる場合には業務指導以外にも、気持ちの変化に寄り添った細やかなフォロー対応や、相互の意思疎通を行うコミュニケーションが求められるが、個人の障がいの種類・特性によっては難しいケースがあるという。また、チューター本人の心的負担感や指導状況が見えにくい環境の場合には、上司や同僚から評価されにくく、キャリアアップにつながりにくい可能性もある。これらを背景に、障がい者雇用推進に取り組む企業の現場では、障がいのある社員のスキルアップやステップアップ、キャリアパスが課題となっているようだ。そうした課題を解決するべく、KDDIエボルバは、「障がい者雇用専門部署」で障がいのある社員が新人社員の育成を行う「チューター制度」を導入した。同部署には、障がいのあるスタッフが500名以上在籍しており、約8割がBPO・コンタクトセンター事業にかかる業務を担い、約2割は障がい者雇用専門部署で事務や清掃、農業、植栽等の業務を担っているという。まず同社は、「チューター制度」導入に向けた課題を整理し、「チューターとして新人社員と向き合い、指導する」ための伝え方や距離感、コミュニケーションのあり方、「認知のゆがみ」によって起こりうる事象、新人社員が抱える不安感の理解と対応などを踏まえた内容のチューター育成を行った。その結果、管理者とチューター間の日常的な連携や指導・助言、評価体制を整えた運用により、制度導入を実現したという。
なお本制度は、社員の新たなステップアップ・キャリアパスの道を開くための施策として位置づけており、2022年4月よりトライアル運用を開始し、2023年1月に正式導入した。
本制度導入により、チューター自身が視野を広げることや、よりよい人間関係の構築、社会人としての責任感・自主性の成長につながっているという。また、チューターが他の社員に日々寄り添う環境をつくることによって、新人社員の心理的安全性の確保や業務習得、環境適応を促し、新人社員と職場全体のコミュニケーションが活発化しているとのことだ。2023年3月末時点で、新入社員の定着率は100%、職場全体の定着率は約99%へ向上したという。
同社は今後、チューターを担う社員が正社員登用に進む成長支援とキャリアパスの整備、ステップアップ新人社員の受け入れと育成にかかるチューター管理者の補助業務、チューターによるチューターの育成・研修といった「役割の拡張」を目指していく方針を示している。