退職後に転居した方は要注意!
現在、法律改正により多くの厚生年金基金が業務の継続を断念し、解散等の準備を進めている最中である。平成27年9月末現在、全国の基金数はピーク時の約2割にあたる377基金にまで減少しており、将来的な厚生年金基金業務の継続を考えているのはわずかに20基金のみともいわれている(厚生労働省発表)。財務状況が厳しい厚生年金基金が解散をする場合、厚生労働省から正式な解散認可が下りる前に「選択一時金」という資金の支払いを停止するという資産保全措置をとることが多い。たとえば、「1ヵ月の猶予期間を設け、1ヵ月後には選択一時金の支払いをすべてストップする」などの取り扱いを行うことがある。
「選択一時金」とは企業が支払う退職金の一部を厚生年金基金が代わりに支払う仕組みである。この「選択一時金」は退職後の “希望する時期” にいつでも受け取れるケースが多い。退職しても受け取らずに、年金を受け取る年齢になるまで基金に預けておけば、一時金形式ではなく年金形式で生涯にわたり受け取る権利を得られるため、退職時には「選択一時金」を受け取らない方も少なくない。この「選択一時金」の支払いが、たとえば「1ヵ月後には停止」などの資産保全措置がとられることが多いのである。
通常、厚生年金基金がこのような取り扱いを決定した場合には、その旨を記した通知が全関係者に送られる。従って、通知を見てすぐに手続きをすれば、退職をしたけれどもまだ受け取っていなかった「選択一時金」を支払いが停止される前に受け取れる可能性も出てくる。
しかしながら、厚生年金基金のある企業を退職した後に転居をしている場合、基金に対して住所が変わったことを届け出ていなければ、その通知が手元に届くことはない。基金に登録されている住所に通知は発送されるが、宛所不明で基金に戻されてしまうからである。その結果、支払いが停止される前に手続きをすれば受け取れたはずの「選択一時金」が受け取れないという不利益を被ることになる。退職金の一部に相当する資金なのにもかかわらず、受け取ることが叶わないという不合理が発生するわけである。
また、財務状況が良好な厚生年金基金が解散をする場合には、解散認可が下りた後に発生する余剰の財産を関係者に分配金として支払うケースが多い。解散認可の取得から1年程度経ち、各自に支払われる分配額が決定すると、基金の清算事務を行っている団体から関係者に対して文書で手続きを促す通知が発送される。
しかしながら、こちらも前述同様に、退職後に転居した場合は基金に住所変更の届け出をしていなければ、その通知が手元に届くことはないのだ。その結果、基金解散後に全関係者が受け取れるはずの分配金を受け取れないという不利益を被ることになる。
この分配金は企業年金連合会という別団体に持ち込めば、年金形式で受け取る余地も残されており(詳細は平成27年6月22日付HRプロニュース「厚生年金基金が解散した後も「年金」を受け取る方法」を参照)、通常、分配金の通知にはその権利についても記されている。しかしながら、通知が手元に届かなければそのような権利があることに気付くこともない。
基金解散前ならまだ間に合います!
厚生年金基金のある企業を退職した後に転居をしても、基金に住所変更手続きをしない方は非常に多いのが現状である。その結果、たくさんの方が「受け取れるはずのお金を受けっていない、もう受け取れない」という事態に巻き込まれていると思われる。現在、多くの厚生年金基金が業務を止めようとしているため、利害関係者の数は想像以上に多いであろう。厚生年金基金のある企業に勤務経験のある方がこのような不利益を被らないためには、転居をした際は基金にもしっかりと住所変更手続きをしておくことが大切である。心当たりのある方は、大至急、基金に連絡を取り、自身の住所データの更新をしてほしい。すでに基金が解散認可を受けている場合でも、基金の事務局が継続して清算事務を行っているので、通常は解散前の連絡先に連絡を取れば大丈夫である。
各企業の人事部門も、中途採用者に対して上記に関する注意喚起をしたいものである。自社の社員が前職の厚生年金基金に関する問題で不利益を被ることがないよう、ぜひ配慮をしてほしい。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)