最近話題になっている「マタハラ(マタニティー・ハラスメント)」。数あるハラスメントの中で、最も会社側に厳しい内容になっているのが、このマタハラなのである。
 どのように厳しいのか、マタハラの内容と判断基準を見てみよう。
「経営難」「本人の能力不足」を言い訳にできない、マタハラの判断基準

1年という期間で決められる厚労省の判断基準

どのハラスメントであれ、一応の定義はあっても、ある行為がほんとうにハラスメントかどうかの判定はかなり微妙なものだ。似たような行為であるのに、当事者間の人間関係のあり方によって、ハラスメントかどうかの境界線は動いてしまうのがふつうだ。
 だが、マタハラに関しては、かなり明確な基準がある。
 まず、厚労省の「STOP マタハラ」の事業主向けパンフレットから、マタハラとなる行為(=不利益取扱)の例示を見てみよう。

・解雇
・雇止め
・契約更新回数の引き下げ
・退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要
・降格
・減給
・賞与等における不利益な算定
・不利益な配置変更
・不利益な自宅待機命令
・昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行う
・仕事をさせない、もっぱら雑務をさせるなど就業 環境を害する行為をする

「不快」「苦痛」などの、外から見てわからない心情ではなく、具体的な行為が並んでいる。
 そして、これらの行為が「妊娠・出産・育休」等を理由として行われたら、マタニティー・ハラスメントに該当する。
 理由となる状況については、次のような例示がされている。

◆妊娠中・産後の女性労働者の・・・
・妊娠、出産 ・妊婦健診などの母性健康管理措置
・産前・産後休業
・軽易な業務への転換
・つわり、切迫流産などで仕事ができない、労働能率が低下した
・育児時間
・時間外労働、休日労働、深夜業をしない

◆子どもを持つ労働者の・・・
・育児休業 ・短時間勤務
・子の看護休暇
・時間外労働、深夜業をしない


内容が具体的であっても、これだけならセクハラ・パワハラなどと同じく、状況によって、評価は変わってくるだろう。だが、マタハラについては、状況よりもタイミングが重要になってくる。
 そのタイミングとは、次のようなものである。

妊娠・出産、育休等の事由の終了から1年以内に、不利益な行為が行われたら、原則マタハラ(違法)である。

「マタハラではない」という証明は会社側が行う

「原則マタハラ」ということは、例外もあるということである。
 実際に、会社の経営上必要な配置転換や、本人の能力不足で降格になったり、雇い止めや解雇ということも当然考えられる。
 さきほど見た厚労省のパンフレットでは下の表のような例が、例外として認められている。



これは例示であり、実際にはより詳細な状況を確認したうえで違法性の判断を行うということである。
 つまり、ほんとうは妊娠出産育児、それに伴って休みが増えたり、業務時間に限りがあるなどの理由なのに、それ以外の理由を「言い訳」として持ち出すことは、不可能になっているのである。

 しかも、「マタハラではない」という証明のためには、例外に該当する状況にあると、会社側が証明しなければならない。そのためには、状況がわかる文書等を求められるのが普通なので、前もって準備をしておかないと、実際には例外に該当したとしても証明できず、マタハラ認定されてしまう。
 厚労省は、マタハラを行った企業が指導や勧告に従わないなど、悪質な事例については企業名を公表するとし、実際に9月には茨城県の医院名が公表された。職員が妊娠を理事長に報告すると、「明日から来なくていい」「妊婦はいらない」と告げられ、2週間後に解雇されたというひどい事例だったので、「うちには関係ない」と思った経営者も多いのではないだろうか。

 実際に重要なのは「産休育休等の終了後1年以内の不利益取扱は原則マタハラ」「マタハラでないという証明は会社側が行う」という2点である。
 労使紛争を未然に防止するためには、会社側がこの2点をきちんと頭にいれて、妊娠出産育児を行う労働者の処遇を決定することが必要となるのだ。


メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/セクハラ・パワハラ防止コンサルタント/産業カウンセラー
李怜香(り れいか)

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