私傷病休職制度とは
就業規則などで定められている『私傷病休職制度』は、一般的には従業員が業務外の私傷病により労務に従事することができなくなった場合において、解雇を猶予し、労働契約関係を維持したまま労務への従事を免除または禁止する制度であり、『解雇猶予制度』と解されている。休職期間中に回復すれば復職し、回復しなかったときには自然退職又は解雇となるのが一般的である。この私傷病休職制度の趣旨は、解雇を猶予し労働者を保護するという点にあるが、過去の裁判例においても『休職制度は...この期間中の従業員の労働契約関係を維持しながら、労務への従事を免除するものであり、業務外の傷病により労務提供できない従業員に対して...退職を猶予してその間傷病の回復を待つことによって、労働者を退職から保護する制度である、と解される。』と判示されている。
休職制度は労働基準法で義務付けられている制度ではない為、休職制度を導入するかどうか、また導入する場合の内容等は会社が自由に決めることができ、運用については各社の規定に基づくため、トラブルが生じる事も多い制度である。
入社間もない休職の申し出への対応は
それでは、入社間もない従業員から休職の申し出があった場合、企業としてはどう対応したら良いのであろうか。まず、会社の就業規則の休職制度の定めを確認したい。
休職制度の定めがある場合は、入社間もないといえども定めに従い休職を発令しなければならない。
休職制度の定めがない場合、あるいは休職制度を有している企業においても、対象者を試用期間満了後あるいは勤続1年以上等と限定している場合は、どうであろうか。就業規則の解雇事由に『精神又は身体に故障があり業務に耐えられない、又は労務提供が不完全であると認められるとき』等の事由が定められていれば解雇の対象となり得るので、試用期間中であれば本採用拒否も可能といえそうである。しかし、当該疾病が業務に起因する場合は解雇が制限されるので確認が必要だ。
また、過去のケースで、休職制度適用対象者以外に休職制度を利用させてきた等の慣例がある場合に休職制度を利用させず解雇をすると、解雇権の濫用とされる可能性もあるので注意が必要である。
更に、近いうちに回復の見込みがあるのに休職制度を利用させずに解雇をする場合にも、本採用拒否は無効とされる可能性もある。休職を申し出てきた場合、主治医や産業医の意見を聴取する等、慎重な対応が必要である。
入社間もない従業員の休職事由が、メンタルヘルス不調によるものである場合も多い。特に若い世代、20代~30代前半に『新型うつ』が多いと言われているが、『新型うつ』は、『仕事中だけうつになり会社の外では元気』『休職することに抵抗はなく、すぐに休職を希望する』『他責的、逃避的』等の傾向があり、はたからみると、『さぼりだ』『やる気がない』ように見え、職場での対応も難しく、周囲の人間の方が参ってしまうケースも多いと聞く。
会社としては何とか環境を変える等対応を考えようとするが、筆者がこれまでみてきたいくつかのケースによると、『新型うつ』の原因が本人の心構えにあり、会社の環境を変えてもあまりよくならない場合も多いようだ。そういった場合、休職を付与したとしても治らないことも考えられるし、本人にとっても、ずっとその会社で働く事自体がストレスかもしれない。そういうときは前向きな退職について話し合うという選択もあるかもしれない。ちなみに、休職中で給与が出ない場合は、健康保険組合等から1年6カ月、傷病手当金が支給される。それ以降も働けない場合は障害年金の受給ができる場合もある。病気中に無収入となることはそれ自体がストレスとなり得るため、退職したくても退職できない、ということもあるようだ。実務担当者としては、そういった制度についても熟知し、休職者へ案内をする等し、従業員にとっても、会社にとっても最善の選択ができるよう配慮すべきである。
近年、半数の企業に休職取得者が発生しているといわれているが、休職制度を利用する状況は時代ともに変わってきている。現在の就業規則で様々な場面での対応が可能なのか、今一度自社の制度について確認をしてみては如何だろうか。
松田社労士事務所
特定社会保険労務士 松田 法子