「ある日社員が休職になった。」

従業員が体調を崩した時、経営者の方も心配してどのような病状なのか詳しく知りたいと考えるケースがある。特にその会社において初めてうつ等のメンタルヘルス疾患が発生したケースなどに多いようである。
言うまでもなく、個人の病状や病名という情報は高度な機密情報である。なにかプライバシーという言葉に躊躇して容易に取得しづらいと考える人も多い。
社員の病状を詳しく知りたいと思った時の情報取得の方法のコツ【経営者向け】

体調が悪い社員に対して適切に対処することが本来の目的

しかしながらきちんと病状を理解することで、本人に適切な仕事をアサインできるのではないか、配慮できることがあるのではないかと社員のことを親身になって考える経営者の考えを即座に否定する必要はないと考える。過度に個人情報を保護するあまり、あべこべになってしまう事例をよく見るからである。例えば、新任の産業保健スタッフに多い例ではあるが、安全配慮義務から症状を聞いているのに、一言「個人情報なので答えられません」と言ってしまう例である。安全配慮義務と個人情報保護との適切なバランスが取れていないのである。個人情報とは適切に活用されるべきものであり、過剰に保護して本来の目的を見失っては本末転倒である。今回の場合は、体調が悪い社員に対して適切に対処することが本来の目的であり、プライバシーの過保護が目的ではないのである。

そのような時、注意したいのは、情報取得の際の基本ルールである。

情報取得の際の基本ルールとは?

情報取得の際に、「必ず事前に個人の同意をとる」
ことが基本ルールである(もちろん自傷他害の恐れがあるときや、法令に基づくときなどの例外は除く)。

この原則をきちんと守ることが大切である。よくある失敗例として、事前に同意を取らず会社から直接、社員の主治医のところに情報を照会し、主治医から社員に「会社から照会が来ているけれでも、答えてもよいか?」と聞かれてしまうとういうものである。このようなパターンでは、社員は心配されているとは感じられずなにか疑われていると感じてしまい、会社との信頼関係が崩壊し、その後の関係性にも悪影響を及ぼしてしまうであろう。

信頼関係が崩壊しまうと、その後の復職時あるいは、退職時等にトラブルになる例も多く、会社としては絶対に避けなくてはいけない事態であると言える。

信頼関係を築きながら、かつ適切に情報をとるために、事前に同意をとり、さらに言えば社員本人がたとえば情報提供依頼書を医師へ直接渡し、記載したものを会社に持ってきてもらうなどの工夫も大切である。あくまでも従業員本人が納得したうえで、本人を経由して情報を取得するというのがトラブルの少ない方法であると言える。人によって取り扱いが異なるとそれはそれでトラブルの元であるので、統一的な運用ができるようルール化と周知をしたいものである。

そしてその際にどうして会社が適切な情報を取得したいと考えているのか、会社が従業員の体調を心配し、適切な配慮をするためにこのように動いているのだということを繰り返し伝えることが大切である。繰り返し伝えることにより、会社が従業員を大切に考えているということが伝わるのである。
会社に大切にされていると従業員が感じることができる環境が、従業員と会社の信頼関係が築ける環境の基本である。

そのように従業員と会社との信頼関係が構築されている職場というのは、往々にして雰囲気がよく、また休職者も少なく生産性が高いという特徴がある。まさに経営者が望んでいる職場であると言える。
安心して働ける明るい生産性の高い職場を作るためにも、きちんと情報収集のルールを設定し、従業員と会社の信頼関係の構築に努めたいものである。また、会社として従業員の健康をどう考えているのかを繰り返し繰り返し伝え続けるよう努力すべきである。


Office CPSR(オフィス シーピーエスアール)臨床心理士・社労士事務所 植田健太

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