継続が不可能な厚生年金基金の元加入者はどうすればいい?
2012年に発覚したAIJ投資顧問事件を契機に、財務状況の悪化が明るみに出た厚生年金基金制度。昨年4月には、大きな財務余力がない限り厚生年金基金業務の継続が不可能になる改正法が施行された。改正法施行から本年1月までのわずか10ヵ月で60基金が厚生労働省から解散等の認可を受け、1月末日現在、運営されている基金は471基金にまで減少した。その471基金の中にも、解散等の準備を進めている基金が368基金も存在する(厚生労働省発表)。
厚生年金基金のある企業に勤めたことがある人を元加入員などという。このような状況の中、基金の元加入員は、今、何をすべきだろうか。
はじめに、自分が入っていた基金の現状を確認することである。基金が解散等をする場合には、まず代議員会という会議体で「解散の準備に入ること」を正式に決議しなければならない。一般的には、この決議後に関係者へ何らかの告知が行われる。従って、基金から送られる郵便物や機関誌、ホームページなどに解散等に関する告知がないかをチェックするとよい。
しかしながら、数ある基金の中には「解散の準備に入ること」を代議員会で決議したにもかかわらず、元加入員には何の告知も行わないケースが存在する。元加入員には機関誌を発行せず、ホームページも開設していないという基金も少なくない。従って、何の告知がなくても安心せず、基金の事務局の連絡先を調べて自ら問い合わせをしたいものである。
2番目に、基金が解散を予定している場合、年金がどの程度減額されるかを確認することである。基金は本来であれば国が支払う「国の年金分」に「基金独自の上乗せ年金」を加えて払う仕組みである。基金が解散をした場合、「国の年金分」は国が支払いを引き継ぐので、「基金独自の上乗せ年金」が払われなくなる分だけ収入が減ることになる。
基金が解散した場合にどの程度の年金が減額されるかについて、報道などでモデルケースが示されることがあるが、厚生年金基金は基金ごとに給付ルールが異なるので、報道の数字は必ずしも自分のケースに合致しない。基金のある同じ企業に勤めた場合でも、人により年金の減額割合が大きく異なることも少なくない。従って、直接、厚生年金基金の事務局にどの程度減額されるかを確認することが大切である。
「加算年金」の一括払いを検討
3番目に、「加算年金」の“一括払い”を検討することである。「基金独自の上乗せ年金」は、そのうちの大部分を「加算年金」という名称で終身年金で支払うケースが多い。この「加算年金」は本人の希望により、残りの期間の受け取り分を一時金に換算して、“一括払い”でもらえることがある。基金が解散すれば、「基金独自の上乗せ年金」の支払いは行われなくなるので、本来は終身でもらえるはずであった「加算年金」も、支払いが打ち切られてしまう。しかしながら、基金が解散する前に“一括払い”を受けておけば、そのような不利益を被らなくて済む。まだ、「加算年金」を受け取る年齢になる前の若い方でも、一時金でならばすぐにもらえるケースも少なくない。
ただし、基金が解散をする場合、資産保全の名目で一時金の支払いが凍結されることがある。万一、一時金の支払いが凍結されれば、「加算年金」の残りについて“一括払い”を受ける道も閉ざされてしまう。そのような事態に陥る前に、早めに一時金で“一括払い”を受けるというのも一つの方法である。
最後に、「国の年金分」が支払われないケースに該当しないかを確認することである。基金が支払う年金のうち「国の年金分」は、基金が解散しても国が支払いを引き継ぐ。その意味で、基金のある企業に勤めていた人が不利益を被ることはない。
ただし、基金は「国の年金分」を “国よりも有利な条件で”支払っている場合が多い。国が支払う年金はさまざまケースで、「支払額を減らす」「支払いを止める」などの支払い制限を掛けるものである。しかしながら、基金が「国の年金分」を払う場合には、そのような支払い制限を掛けないことが多い。
そのため、基金の解散により「国の年金分」の支払い元が国にかわり、国の年金支払いルールが適用された結果、支払い制限に引っ掛かり、国からは支払いを受けられないという現象が起こり得る。
「国の年金分」は国が支払いを引き継ぐという説明を安易に鵜呑みにしていると、足元をすくわれることがあるので要注意である。「国の年金分」にもかかわらず支払いが制限される具体例は別の機会にご紹介しよう。
厚生年金基金のある企業に勤務経験がある方は、早急に現状確認を行うことをお勧めする。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)