今回の騒動の対立の原因は?
まず、今回の騒動の発端は、2014年7月の取締役会において、久美子社長(当時)が解任され、取締役に降格したことから始まっている。解任された理由は、双方共に明確にしていないが、どうやら勝久会長が久美子社長の経営に対して不満を持ち続けており、それが爆発して解任動議を決議したというのが実情のようである。さらに、2015年1月28日には、久美子社長が代表取締役に復帰することになった。その理由は、会長側によれば、社長側が一方的に緊急動議を起こして決議した【クーデター】であると主張している。多くのメディアは、会長側が古くからの会員制に拘る一方、社長側が会員制の廃止を訴える等、双方の経営計画の違いがこの対立を生んでいると報道している。
実際の対立の原因は何なのであろうか?
実は、各々に対する最新のインタビューによれば、双方共に経営計画に大きな違いは無い。実際に、事実上、会員制に関しても既に廃止しているし、今までの高級路線は踏襲しつつも、低価格路線とは一線を画した中価格路線を開拓するということを双方共に主張している。大きな違いは、広告宣伝費の使い方、具体的にはチラシの活用の有無だけである。社長側は、既存メディアの新聞等の購読率の低下により、チラシの反応率が低迷している為、チラシ以外の販路開拓に力を入れるべきであると主張しているのに対して、会長側は、広告宣伝費を絞ったことにより、売上の低迷が続いている為、チラシを中心とした広告宣伝費をかけるべきであると主張している。
確かに、大きな違いの一つではあるが、ここまで拗れてしまう程の原因になるとは思えない。だとすれば、なぜ、こんなに拗れてしまったのか?
会社は経営者のもの? それとも株主のもの? それとも、、、
実は、本質的には、それぞれの経営者の会社のガバナンスに対する価値観の違いが今回の対立の本質的な原因であるように筆者には思える。社長側は、経営の合理性を強く主張し、今回の株主総会に向けて、機関投資家である大株主からの支援を勝ち取っている。このことからも、社長側は、会社の価値向上を主眼とし、株主に最大の利益をもたらすというのが会社の使命であると強く認識しているように思える。一方で、会長側は、古参の社員を含めた幹部社員からの支持を勝ち取っている。このことから、会長側は、社員満足度の向上というものに主眼を置き、あくまでもファミリービジネスとしての会社経営を考えているように思える。
どちらの主張にも一理ある。しかし、問題なのは、双方ともその偏りが激しいことである。皆様もご存じの通り、会社には多様なステークホルダーが存在する。具体的には、顧客、株主、取引先、従業員、地域社会、行政機関等である。その中のいずれに対する『公平さ』を欠いても会社経営は長期的に成り立たないというのが経営のセオリーである。
確かに、会社法の原則論からいえば、株式会社とは、株主が出資をした会社が経営権を持つ代表取締役の下で取締役会が重要事案の決議をするということであるから、ステークホルダーの中で最も主眼を置くべきは株主であると言えなくもない。しかしながら、経営と資本の分離の力学が強く働くアメリカと異なり、日本は、大株主に経営者一族が存在することも多い。だとすれば、株主という特定の一方向に強く力学を働かせること自体が他のステークホルダーを軽視し、会社のガバナンスを低下させることに繋がりかねないのではなかろうか?特に、幹部社員の全てが勝久会長側についているというのは、従業員という最も重要な資源を軽視してきてしまった証のような気がしている。
一方で、勝久会長側の従業員重視の経営というのも眉唾ものである。確かに、従業員満足度(ES)の向上は必要であるが、今回の件では、あくまでそれは建前であり、実際は、古参の幹部達を上手く扇動して、会長側の支持を取り付けることに利用しようとしているというのが本音ではないかと感じている。
個人的には、過去の優秀と言われる経営者のほとんどが全てのステークホルダーに対して上手くバランスを取って経営しているのであるから、会長側か社長側のいずれかが実権を握るにしてもそのステークホルダーに対して『公平に』接して経営して欲しいと考えている。
いずれにしても、3月27日の株主総会でどちらが経営権を握るのか?その結果を踏まえて、その後に、どのような解決への道があるのか?【会社は誰のものか?】という答えを求めて、最適な回答が出てくることを望む。
高野経営労務事務所 代表・社会保険労務士 高野 裕一