半数以上が「人材育成・能力開発」の見直しを必要とするも、未実施企業は4割以上に
「人的資本経営」が注目される昨今、政府の「骨太の方針」においても「人への投資」が掲げられている。自身の成長やキャリアを見据え、リスキリングを検討する流れもある中、企業では人材育成や能力開発において、どのような取り組みを行っているのだろうか。はじめにリクルートは、「『人材育成・能力開発』について制度を変える、従来のやり方を見直す必要性を感じているか」を聞いた。すると、「強く感じている」が13.7%、「やや感じている」が37.4%で、合計51.1%と過半数を占めた。
また、「見直しの必要性を感じている」とした回答者(1,411名)に、「『人材育成・能力開発』に関する人事制度を改定する、やり方を見直すことができているか」を尋ねた。すると、「できていない」との回答は46.8%(あまりできていない:32.8%、できていない:14%の計)だった。一方、「できている」との回答は3割未満(できている:4.5%、ややできている:23.7%の計)にとどまった。人材育成・能力開発について見直しの必要性を感じていながら、実施に至っていない企業が多数ある実態が明らかとなった。
“重要性の認識”と“実施状況”ではギャップを示す結果に
次に同社は、全体に対し、人材育成・能力開発の各取り組み項目について、「どれくらい重要だと思っているか」と「どれくらい実施できているか」を尋ね、回答率を比較した。その結果、“重要だと認識している割合”と“実施割合”の差が最も大きかった取り組みは、「従業員のキャリアプランおよび強み・スキルを踏まえて、社内外のあらゆるキャリア選択を示している」で、13.7ポイント差だった。次いで、「従業員に対して、自社以外でも通用するスキルを学ぶ機会を提供している」が12.8ポイント差となった。これを受け同社は、「『今後のキャリアの可能性』や『社外での活躍』など、中長期的未来を見据えた施策を重要視しているものの、まだ取り組みが進んでいない企業が多い現実が見て取れる」とコメントしている。
人材育成の取り組みの有無によって「スキルの棚卸しや検討」の差が顕著に
続いて同社は、人材育成・能力開発の見直しができている企業とできていない企業に、「3年前と比べて生産性が向上しているか」を尋ねた。すると、見直しができている企業では、生産性が向上していることがわかったという。そこで、「人材育成・能力開発に関する具体的な取り組み」を尋ね、生産性が向上した企業と低下した企業で割合を比較した。その結果、最も差が大きかったものは、「従業員の経験からスキルを棚卸しして、希望する等級や職責になるために必要なスキル・経験を一緒に検討している」(向上した企業:48.8%、低下した企業:26.1%)だった。以下、「従業員に対して、自社以外でも通用するスキルを学ぶ機会を提供している」(同49.5%、23.8%)、「大学での学び直しやセミナー参加といった、社外での学習を奨励している」(同42.3%、24.3%)と続いた。
これを受け同社は、「従業員のスキルの棚卸しと今後のキャリアに関する対話ができているか、個人の強みやスキルを踏まえた成長機会の提案ができているかどうかが生産性アップのカギといえそうだ」との見解を示している。
離職率を抑えるには「個々の従業員のキャリアに合わせた成長機会の提供」がカギか
また同社が、「人材育成・能力開発のやり方の見直しと離職率」の関連性を調べたところ、見直しができていない企業では、見直しができている企業と比べて、離職率が想定より高いことがわかったという。そこで、「離職率が適性」と答えた企業と「離職率が想定より高い」と答えた企業で、「人材育成・能力開発の具体的な取り組み」の割合を比較した。その結果、「離職率が適性」とした企業では、ほぼ全ての項目で「離職率が想定より高い」と答えた企業よりも実施割合が高いことが示された。
最も差が大きかったのは、「従業員の既存の知識・スキルのアップデートを奨励している」(実施企業:51.4%、離職率が適性と回答した企業:45.2%)だった。以下、「従業員に対して、自社以外でも通用するスキルを学ぶ機会を提供している」(同45.2%、42.2%)、「定期的に従業員のキャリアの方向性や能力開発の計画をすり合わせる機会を用意している」(同43.5%、37.8%)となった。
この結果を踏まえて同社は、「離職率を適正な値に保つには、個々の持ち味やキャリアの方向性に合わせて成長機会をデザインしていくことが大切だろう」と推測している。