経済産業省は2022年7月25日、金融庁とともにオブザーバーとして参加する「人的資本経営コンソーシアム」の設立を発表した。本コンソーシアムは、一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏をはじめとする計7名が発起人となり設立に至ったもの。人的資本経営の実践に関する先進事例の共有や、効果的な情報開示の検討等を行っていく予定だ。同省はこれらの取り組みにより、日本企業の次なる成長へとつながることを期待しているという。
経産省・金融庁をオブザーバーとして「人的資本経営コンソーシアム」が設立。効果的な情報開示の検討などを推進

国内外で「人的資本情報の開示」に対する関心が高まっている

昨今、人材を企業の「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」への注目が高まっている。実際に、2021年6月改訂の「コーポレートガバナンス・コード」では、人的資本への投資について、自社の経営戦略や経営課題との整合性を意識しつつ、具体的に情報を開示するべきであること等が記載された。また、経産省は2022年5月に「人材版伊藤レポート 2.0」を公表。この中では、人的資本経営を実践に移していくための取り組みや重要性などを記している。

このように、企業価値評価における「人的資本」の重要性が高まるなか、国内外では企業による人的資本情報の開示の在り方についての議論が進んでいる。このうち国内では、有価証券報告書の中で、中長期的な企業価値向上に向けた人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」や「社内環境整備方針」の記載や、女性管理職比率等の開示等、これまでよりも踏み込んだ情報開示について議論されている。さらに、内閣官房「非財務情報可視化研究会」では、人的資本情報の可視化を目指し、企業経営の参考となる指針の検討が進んでいるという。

一方で海外においては、2021年11月にIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」を設置した。同審議会では、サステナビリティ情報に関する開示基準の開発が進められているという。

発起人の呼びかけにより「人的資本経営コンソーシアム」を設立

企業が持続的に自社の価値を高めるには、経営陣が自社の中長期的な成長に寄与する人材戦略の策定をリード・実践するとともに、その方針を統合報告書や投資家との対話等でステークホルダーに説明することが必要不可欠とされている。このような考えに基づいて、大学や企業の代表者計7名が発起人となり、「人的資本経営コンソーシアム」の設立が呼びかけられ、2022年8月25日に設立総会が開催された。

本コンソーシアムでは、「企画委員会」、「実践委員会」、「開示委員会」が設置されている。今後は各委員会での活動を通じて、人的資本経営の実践に関する先進事例の共有や効果的な情報開示の検討、企業間協力に向けた議論の推進や投資家との対話の場が設けられる予定だという。なお、本コンソーシアムには、経産省および金融庁がオブザーバーとして参加する。これらの活動を通して、「人への投資」に積極的な日本企業に、海外からも資金が集まり、次なる成長へとつながることを期待しているという。なお、人的資本経営コンソーシアムの発起人は以下の7名だ。

●一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄氏(発起人代表)
●キリンホールディングス株式会社 代表取締役社長 磯崎 功典氏
●株式会社リクルート 代表取締役社長 北村 吉弘氏
●SOMPOホールディングス株式会社 グループCEO 取締役代表執行役会長 櫻田 謙悟氏
●株式会社日立製作所 取締役会長 代表執行役 東原 敏昭氏
●ソニーグループ株式会社 代表執行役 会長 兼 社長 CEO 吉田 憲一郎氏
●アセットマネジメントOne株式会社 取締役社長 菅野 暁氏


本コンソーシアムの設立により、人的資本に関する情報開示の在り方等の検討が進むことが期待される。「人的資本経営」を強化したい企業では、政府のこうした取り組みに注目し、公表される情報等を参考にしてみてはいかがだろうか。

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