・ある店舗で有給休暇を取得すると残業代からその分給与天引きをしていた。
・「賃金不払い」「賃金控除の協定なく制服代、研修費などを天引きされていたこと」などの事案に対して労働基準監督署の是正勧告がなされた。その天引きについて労働基準監督署に申告をした従業員に対して社長は「潰れるよ、うち。それで困らない?」「あなた会社潰してもいいの?」などと威圧的な発言した。
(この発言内容の音声が公開され、多くの人の耳に触れることとなった。)
“マタハラ”で再び提訴
本件に関してはテレビ・ネット等で報道されたこともあり、この店舗に限った問題でなく、全国の支店に影響を与えることになるだろうと思っていた矢先、次の訴訟である。10月、同社でマタニティ・ハラスメント(通称マタハラ)があったとして、慰謝料200万円などを求めて女性従業員が会社側を提訴した。
概要としては、以下のとおりである。
・長時間労働により妊娠中の体に大きく負担があった。
・妊娠後に仕事の負担が軽くなるよう、女性従業員から会社に対してフロントでの受付業務への配置転換を求めたが拒否された。
・出産から半年ほどで「フルタイムの正社員として必ず戻ってこなければならない」と会社側に通告された。
・産前産後休暇や育児休業について、法定の休業制度等とは違う説明を受けた。
・(そういえばそもそも)残業代ももらっていなかった(この金額がなんと約1400万円。
提訴した女性従業員は、さらにダメ押しのように以下のような告発もしていたようだ。
・忙しくておにぎりひとつ食べられなかった。
・定期代の上限が2万円だったが、実際の定期代は4万円かかっていた。
・ストレスにより胃腸炎になった。
・ジュエリーやマッサージ用品、化粧品など自社商品をローン組んで購入させられた。
・ノルマがきつくて、お客様に不要なエステサービスも勧めざるを得なかった。
この事件や訴えの内容を見てどのような感想を持つだろうか。
経営者からすると、「こういうこと、ウチでもあるかも、、、」ということもあるのでは?
・自社の商品を購入させ、給与から天引きしている
・従業員の妊娠出産について、会社は退職を望んでいる旨を伝えた
・お昼を食べる時間もない忙しさの中で働かせている
・タイムカードを打刻後も残業をさせてしまっている
などの場合は要注意だ。
3つのパターンで労使問題を解決に
これらのケースを他山の石として、社労士として人事に携わるみなさんに貢献できるアドバイスとしては、以下の3パターンがある。1. あくまでも法令に沿った指導を重視
2. 「現状をベースに徐々に変えていく」というスタンス
3. まったく別の切り口で提案を
<1. あくまでも法令にのっとっての指導を重視>
この場合、法令違反箇所を列挙して、解決できそうなところから改善していくことになる。
今回の事案ならば、
・賃金控除するための協定締結
・経営者・幹部への「出産育児にかかる法令の説明会」の開催を提案
・36協定の「特別条項」についての解説
・定額残業代の整備
などの指導をすることになるだろう。
<2. 「現状をベースに徐々に変えていく」というスタンス>
この場合、「サービス業で労働時間(拘束時間)は長いにもかかわらず労使関係がうまくいっているケース」を参考にする。
今回のケースでは、女性従業員の告発をみればわかるが感情的な対立により問題がどんどん大きくなっている。
これを踏まえ、感情的な対立を防ぐための「理念共有」や「社内行事」などを行っている事例を参考にするのも有効だろう。
(もちろん法令違反を奨励するなんてことはない)
要はバランス感覚、である。
<3. まったく別の切り口で提案を検討するスタンス>
この場合、「労働基準法上の~」でなく、もっと大局的な発想・提案が求められる。
当然、幅広い知識と経験を要することは言うまでもない。
労働問題から脱却した実例から情報収集し、とことん研究して情報発信することになる。
ケースバイケースで問題解決のプロセスも変わってくる。
常に顧問先企業にとって最適な提案をできる専門家であるためにも、たった一つの事例から学ぶことは無数にある。
社会保険労務士たきもと事務所 代表・社会保険労務士 瀧本 旭