採用した「ニューロダイバーシティ人材」に対し、柔軟で幅広い就労機会の提供へ
「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」とは、「Neuro(脳・神経)」と「Diversity(多様性)」という2つの言葉から成るもので、「脳や神経に由来する、個々の特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方のこと。特に、自閉スペクトラム症や、注意欠如・多動症といった発達障がいにおいて生じる現象を、能力の欠如または優劣ではなく、「人間のゲノムの自然で正常な変異」と捉える概念でもある。EY Japanは、障がいの捉え方を「Disability(能力が損なわれている)」ではなく、「Diverse Abilities(多様な能力がある)」としており、適切な環境が整うことで、特別な能力として発揮されると考えている。そうした考えを持つ同社は、国内の障がい者就労において、専門職としてキャリアを積む機会が限定的であり、スキルやキャリアアップにつながる業務に携わる機会も極めて少ない実情を課題視していた。
そこで同社は、ニューロダイバーシティ人材の雇用および就労状況改善を目指し、DACの設置を決定した。DACにおいては、ニューロダイバーシティ人材が就労経験や柔軟な働き方を通じて、専門的なスキルや業務経験を積み、キャリアの選択肢を広げられるようにすることを目的としている。同社の掲げる新たなスキームは以下の通り。
●採用者はニューロダイバーシティ人材として、同社の他のメンバーと同等の業務に従事する。これにはクライアント対応も含む全業務が該当し、幅広いキャリア構築の機会を提供する
●「適切な環境さえ整えれば能力が発揮できる」という考えのもと、就労環境の整備に向けて、外部の支援団体の常駐や研修などを充実させる
DACには、ニューロダイバーシティ人材の就労支援における専門人材が在籍するKaien社の指導員・支援員が常駐し、メンバーの業務管理や業務指導、健康管理などを行うという。そうした専門人材による管理・指導のもと、メンバーは、「一般事務」、「リサーチ」、「翻訳」、「Webデザイン」など多岐に渡る業務を担当する。また、就労環境も他のメンバーと同様で、入社時よりフレックス勤務や在宅勤務制度が利用可能だ。さらに、障がい者の就労時の大きな課題である、通勤や転居を伴う就職、勤務時間についても、リモート雇用や短時間勤務を導入することで負担の軽減を図り、地方在住者の採用も実現したという。
EY JapanのDE&Iリーダーである梅田惠氏は、「障がい者の就労について、雇用率は上昇しているものの、仕事の質や選択肢という観点では、次世代が夢を描ける状況ではありません。障がいとキャリアの両立は簡単なことではないからこそ、個人がスペシャリストとして、スキルと経験でキャリアを切り開いていくための支援を、弊社での就労経験を通じて多くの方々に提供していきます」とコメントしている。
本取り組みは、ニューロダイバーシティ人材の就労を支援するための有効な事例といえるだろう。“DE&I”を実現するには、障がい者それぞれの特性を理解しつつ、全スタッフが公平な立場で働けるよう、職場の環境整備やスタッフへの周知が重要になるのではないだろうか。