上手くいっているように見える評価制度も、人材育成などには結びついていない?
一般的な評価では、「結果」と「プロセス」を評価します。「結果」とは成果であり、営業担当者であれば、まさに売上のような「数字で見える成果」を指します。一方の「プロセス」とは、主に「情意評価」である場合が多いようです。情意とは「責任感」や「積極性」、「規律性」や「協調性」など、数字で表現することが難しいとものを対象としています。そして、その評価の精度を上げるために、「360度評価」という、ひとりを何人もの人が評価する仕組みを導入している企業もあります。これらの方法が「一般的な評価制度」の運用例です。しかし、本当に適正な評価はできているのでしょうか。仮に評価できているとしても、評価制度の本来の目的である「モチベーション向上」や「人材育成」に活かされているのかは疑問です。たとえば、「責任感」や「積極性」、「規律性」や「協調性」を毎回評価したとしても、結果はあまり変わらないと思われます。また、「360度評価」でほとんど関わりのない社員に対して評価を行うことも、どこまで効果があるのかと考えてしまいます。
私は、多くの企業から評価結果を見せてもらう機会がありますが、5段階評価であれば中間の「3」、4段階評価ならば上から2番目の評価を付けていることがほとんどです。評価点数だけを見れば、優秀な社員ばかりということになります。しかし実際は、業績が低迷していたり、担当者が「なかなか社員が育たない」と口にしていたりするのです。このような評価結果になってしまう原因は、どこにあるのでしょうか。
上手くいかない原因の多くは「評価基準」にある
中小企業では、限られた人と時間を使って生産性を上げていくことが大切です。そのためには、可能な限りわかりやすい評価の「内容」と「基準」、具体的には「評価表」が必要だということになります。その評価表をもとに、評価される側の社員に対して、何をどれだけ達成でき、逆に何が達成できていないかを明確に伝えます。これが教育指針となり、指導する側もされる側も、より具体的な教育を進めることが可能になるのです。人を公平に評価することは難しいですが、評価表によって内容や基準の「透明化」につながります。次に、評価者(上司)の説明能力を高めることが必要です。評価者には、事実と証拠にもとづき、論理的に説明する力が求められます。よくある、ふさわしくない評価者の例としては下記があげられます。
・好き嫌いで評価する
・情や気分に流されて、その時々で一貫性のない評価をする
・部下のネガティブな面ばかりを見て評価する
・一時的な成果で人間性まで評価しようとする
・部下の発言の仕方、物言いについて、評価者が好むか好まないかで評価する
・「~と比べてダメだ」といった、評価対象ではない他者を基準に評価する
これらの感情的かつ属人的な要素を並べ、論理的に証明できない評価をすれば、評価される側には不利益となります。そもそも「評価」とは、社員のモチベーション向上や人材育成によって「業績を上げること」が最終的な目的のはずです。その業績に関連する行動(職務行動)を、事実と証拠にもとづき評価しなければなりません。
最後は「人」が評価する
評価制度を運用するうえでもっとも重要なのは、「不正や隠しだてがない評価を、正しく公明に行うこと」です。しかし、運用するのは「人」です。曖昧な評価基準では、属人的な裁量に任せることになってしまいます。そうならないために、業績に関連する評価基準と作ることがとても重要なのです。今、社員がどのような行動をしているのかをしっかりと見ること。そして、評価基準をあらかじめ社員に説明しておくことも重要です。そうすれば、評価される側の社員も、下された評価に納得し、受け入れることができます。その結果、組織風土もおのずと変わっていくでしょう。経営者の頭の中には、評価基準があるはずです。それを社員に開示し、透明化すれば良いと考えます。
真田直和
真田直和社会保険労務士事務所 代表
https://www.nsanada-sr.jp/