事情に合わせて柔軟に休暇を取得できる「子の看護休暇・介護休暇」とは
「子の看護休暇・介護休暇」とは、「育児・介護休業法」で定められている休暇制度です。対象となる労働者は、年次有給休暇とは別に、この休暇を取得することができます。「子の看護休暇・介護休暇」は“有給”である必要はありませんが、労働者から取得の申し出があった場合、原則的に事業主は拒むことができません。休暇を取得できるケースや、取得上限日数は下記の通りです。【子の看護休暇】
・利用条件
小学校就学前の子のケガ・病気の世話や、健康診断・予防接種を受けさせる時
・取得可能な日数
上限日数は年度において5労働日(小学校就学前の子が2人以上の場合は10労働日)
【介護休暇】
・利用条件
要介護状態にある対象家族の介護や、その他の世話をする時
※「その他の世話」とは、通院の付き添いや介護サービス適用を受けるために必要な手続きの代行などが該当するほか、対象家族の世話と認められるものであれば、家事や買い物も含まれる
・取得可能な日数
上限日数は年度において5労働日(要介護状態にある対象家族が2人以上の場合は10労働日)
法改正で「子の看護休暇・介護休暇」は何が変わるのか
今回の法改正により、「子の看護休暇・介護休暇」は「時間単位」で取得できるようになりました。さらに、今までは休暇取得の対象外だった労働者も、対象に含まれるよう変更されています。<改正前>
・1日もしくは半日単位で休暇の取得が可能
・1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は休暇を取得できない
<改正後>
・「1時間」単位での休暇の取得が可能
・休暇取得が可能な対象は「すべての労働者」
法令で求められている時間単位休暇では、いわゆる「中抜け」(就業時間の途中から時間単位の休暇を取得し、就業時間中に再び業務に戻ること)が認められていませんが、法を上回る制度として、「中抜け」が可能な休暇取得を認めるよう配慮を求めている点もポイントです(※)。
このように、労働者がより育児・介護と仕事を両立しやすくなるよう、休暇取得の柔軟化を企業側に求めた改正内容となっています。
※ 厚生労働省:育児・介護休業法について リーフレット「子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになります!」
企業にはどのような対応が必要なのか
この法改正に対して、企業側はどのように対応し、就業規則に取る入れるべきでしょうか。(1)現在の就業規則を改定する
まずは、就業規則の「子の看護休暇・介護休暇」に関する部分を見直し、改正後の法令に準拠したものに修正しましょう。法令に則した就業規則に改定しておくことは、コンプライアンスの面からも、労使トラブル防止というリスクマネジメントの面からも、非常に重要です。
厚生労働省のホームページには、今回の法改正に伴う就業規則の規定例も掲載されていますので、参考にしてみてください。
【参考】厚生労働省:育児・介護休暇等に関する規則の規定例 04育児・介護休業等に関する規則の規定例
また、現状では「年次有給休暇の時間単位取得」を認めていない企業でも、「子の看護休暇・介護休暇」については、時間単位での取得を認めなくてはいけません。そのため、自社の休暇取得日数の管理方法を見直したり、導入している勤怠管理などのシステムが「今回の法改正に対応しているかどうか」を確認したりすることも必要です。
(2)時間単位での休暇取得が難しい業務にも対応する
労働者の中には、「子の看護休暇・介護休暇」を時間単位で取得することが困難な業務に従事している方もいると思います。その場合は、労働者と企業側で「労使協定」を締結することによって、「時間単位の休暇取得が困難な業務に従事する労働者」を、時間単位の休暇制度の対象から除外することができます。なお、除外する場合は、「困難な業務」の範囲を、労使間で十分に話し合って決めましょう。
また、労使協定により時間単位での休暇取得ができないことになった労働者であっても、 法改正前に引き続き「半日」単位での休暇取得は認めるよう配慮が必要となります。
(3)労働条件の不利益変更に注意する
(1)で述べたように、今回の法改正をきっかけにして就業規則を見直す企業は多いと思います。その際に必ず確認してほしいのは、「既存の規定を下回る変更になっていないか」という点です。
例えば、今までは30分単位で「子の看護休暇・介護休暇」を取得できていた企業が、今回の法改正を機に、1時間単位での取得のみを認めるように就業規則を変更したとします。この場合、変更後の規定は法令上の基準を満たしていますが、労働者にとっては、変更前の規定よりも不利益なものになります。
また、今回の改正内容で例を挙げれば、「子の看護休暇・介護休暇」で「中抜け」が可能だった企業が、「中抜け不可」に変更するというのも、同様に労働条件の不利益変更になってしまうのです。
このように、労働条件を引き下げる変更は労働者に対する不利益となるため、企業側は「規定を変更するためには、一定の手続き要件を満たさなければならない」というルールを設けるなど、慎重な対応が必要となります。就業規則改定の際は、改正された法令の基準を順守しているかだけでなく、変更後の規定が従来の労働条件を下回っていないかも、必ず確認してください。
少子高齢化が進む日本では、年々、生産年齢人口が減少しています。育児・介護に限らず、さまざまな事情を抱える方の就業機会を拡充、推進していく動きは、今後ますます重要になっていきます。まずはその一歩として、2021年1月1日から改正された「育児・介護休業法」に適切に対応しましょう。
内川 真彩美
いろどり社会保険労務士事務所
社会保険労務士、両立支援コーディネーター
https://www.irodori-sr.com