法案可決は時間の問題とされていた改正労働者派遣法案が廃案になったという。改正法が予定通り成立すれば、派遣受入期間の上限が事実上取り払われ、スタッフさえ交代させればいつまででも派遣を受け入れることも可能になるハズだった。
えっ!? 請負契約なのにタイムカード?

<厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」より>

 聞くところによれば、改正法案条文で「1年以下の懲役」とすべきところを、「1年以上の懲役」としたミスに野党が反発し、審議ができなかったからだという。たしかに『労働者派遣法違反で無期懲役』というのでは、どこかの国を彷彿させるような恐怖国家になってしまうが。税金を負担している立場としては、何とも情けない話であるし、クライアントの皆様に「来年春から派遣法が変わります。今のうちにしっかり準備しておきましょう!」と伝え続け、セミナーの時にも叫び続けていた小職としては、ある意味肩身の狭い思いでもある。政府は、次の国会に法案を再度提出する方針だという。来年4月からとしていた施行日は先延ばしされる可能性はあるが、次の国会での審議をじっと見守っていきたい。
 さて、派遣としばしば比較されるのが「請負」という業務形態がある。上の図で比較するとハッキリするが、実際に業務が行われる現場において、指揮命令を受けることがないのが「請負」の大きな特徴である。

 先日、ある会社からこんな相談を受けた。「先月まで、個人事業主としてウチの商品をお客様にお届けしてもらっていた配達員から『未払いの給与を払え』との内容証明郵便が届いた。何とかしてもらえないか」との相談である。「なぜ、個人事業主に『給与』なの?」「なぜ、払わないの?」様々な疑問が噴出したので、一つひとつ尋ねてみた。そして私は答えた。「社長、お話を聞けば聞くほど、それは偽装請負ですよ」と。会社の車両を使わせたときに事故を起こしてしまい、その修理費との相殺させた結果、修理費の方が高くなったので、結果として支払う金額がゼロになったとのこと。
 私がこの社長に「偽装請負ですよ」と答えたのは、次のような根拠によるものである。健全な請負というのは、業務を請け負う側(受託者)が主体的に業務を遂行するものであり、以下のような要件を満たさなければならない。
(1) 業務の遂行方法やその評価等の管理を受託者自らが行っている
(2) 始業終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する管理を受託者自らが行っている
(3) 服務上の規律に関する事項についいての管理を受託者自らが行っている
(4) 業務の処理に要する資金について受託者が自ら調達し、支弁する
(5) 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としての責任を負う
(6) 単に肉体的な労働力を提供するものではない

 大まかに言って以上のようなところだが、この会社では(4)と(5)だけが満たされており、他は全く満たされていなかった。つまり、責任だけは受託者に負わせて、請負契約においてはあるハズのない指揮命令関係が厳しく存在するという、何とも「おいしいところ獲り」の契約形態になっていた。特に(2)については、タイムカードまで打刻させて時間管理を行い、そのクセ「1日8,000円」という報酬体系、そして具体的な指示の下に(6)の単なる肉体労働を行っているという有様であった。そして何より請負契約と認識していたのは社長だけで、現場で業務にあたっていた係長は「契約社員だと思っていた」のだとか。
 今回のところは「給与は直接支払いが原則ですから取りに来てください」との通知を送り、来社してもらった上で、給与は現金にて支払い、それ以外に会社に債務がないこと、修理費の4分の1を負担してもらうこと等について覚書を作成し、本人の署名を取って一件落着となった。
 問題はこれからのことである。今後も「請負契約」をどうしても続けるという社長の意向を受け、「胸を張って出せる請負契約」の構築に向け、目下喧々諤々の毎日である。


社労士オフィスAGAIN 特定社会保険労務士/産業カウンセラー 関本 誠

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