人事労務担当者が取るべき対応
「カスタマー・ハラスメント」についても、トップマネジメントがこれに毅然と対応し、従業員を保護するとの方針を表明することが先決である。職場でクレーム対応の前線に立つ管理監督者であっても、クレーム対応のプロではないので、専門の部署が窓口になる方が適切な場合もある。企業の実情に応じて職場の支援態勢を整備することが肝要だ。どのように支援していくかについては、クレーム対応が「業務による心理的負荷を生じさせる出来事」に当たる以上、PDCAサイクルによって態勢整備や文書化を行ったり、社員教育といった施策を実施したりが考えられる。これに加えて、実施状況を記録することになる。
「パワハラ防止指針」も、他の事業主が雇用する労働者からのハラスメントや顧客や取引先などから受けた迷惑行為について、相談態勢の整備や被害者に配慮した取り組みを求めている。具体的には、以下のような取組みをあげている。
・相談先(上司、職場の担当者など)の選定と労働者への周知
・相談担当者自身が対応できる権限の付与
・クレーム対応の標準化(マニュアル作成)
・クレーム対応研修の実施
さらに、もしも顧客や取引先から暴行を受けた場合、身体的負傷に関しては、使用者の損害賠償責任が認められる事案が多い。担当者がクレーマーから逃れる場所を確保したり、応援要員を派遣したりするなど、企業は、第三者からの暴行を防止する対策を講じておかなければならない。
また、「パワハラ防止指針」は被害者のメンタルヘルス不調者への相談対応も取組みのひとつにあげている。精神的な被害や心的外傷についてはケース・バイ・ケースとなるが、職場や取引先で顧客などから暴行・暴言を受けた労働者に対するメンタルヘルスケアも必要である。事案によっては弁護士に相談して、助言を受けたりクレーム対応を依頼したりして、担当者の荷を軽くすることも検討課題である。
反対に、自社の従業員が取引先や顧客に対して悪質なクレームをつけて加害者になる場合もある。このようなケースでも、自社が被害者だった場合のパワーハラスメント加害者への対応と同様に、「懲戒」を含め厳正な対処をする必要がある。前述の「労働者側請求対応の方法」を応用し、加害者となった当該従業員からカスタマー・ハラスメント被害者(取引先・顧客)に対して、迅速かつ誠実に対応することで2次クレームを予防しなければならない。不誠実な対応をすると、損害賠償請求のリスクを回避できないだろう。
佐久間大輔
つまこい法律事務所
弁護士
企業のためのメンタルヘルス対策室
https://mentalhealth-tsumakoilaw.com/
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