管理監督者が取るべき対応
顧客や取引先からクレームを受けたときは、契約上の信頼関係を維持することを基本方針として、迅速かつ誠実に対応することが望ましい。そのため、クレーム内容や態度が社会通念上相当であると認められる場合には、最初からクレーマー扱いするのではなく、製品やサービスの改善につながる可能性を考慮して前向きな姿勢で取り組むことが必要だ。これに対し、クレームの内容や態度のどちらか、または両方が、社会通念に照らし合わせても不相当である場合には、相手をクレーマーとして対応し、親身な態度は維持しつつも企業としては毅然とした態度を示す必要がある。具体的な対応方法は、本サイトに掲載された拙稿(「労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか」)で解説した「労働者側請求対応の方法」を応用することができるので参考にしていただきたい(※)。
クレームがエスカレートすれば、いわゆる「カスタマー・ハラスメント」に発展する可能性がある。対応方法がわかったとしても、顧客や取引先からのクレームを聞くことは、精神衛生上よろしくないことは誰もが経験上理解できるだろう。
この点について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2011年12月26日基発1226第1号)は、「顧客や取引先からクレームを受けた」ことが業務による心理的負荷を生じさせると評価している。クレーム対応が職場のストレス要因となり、従業員の健康に影響を及ぼすことを認識しなければならない。クレーム対応によって労働者のメンタルヘルスに害が及ばないよう予防策を講じることが、企業としての安全配慮義務の履行となる。
そこで、まずは以下の2点に留意すべきである。
・クレームは「担当者レベルで対応できるもの」と「管理監督者が緊急に対応すべきもの」がある
・担当者が対応できる「小さなクレーム」だからといって軽視してよいわけではない
「小さなクレーム」への対応でも、担当者が抱く小さなストレスの積み重ねが「デイリーハッスル(日常の苛立ち)」となって蓄積されていく。そのため、担当者が、日常的な慢性ストレスと緊急時の急性ストレスにさらされることを前提とした配慮が必要である。クレームに対応する従業員に単独であたらせるのではなく、担当者を増員したり、職場の同僚や上司が適切に支援したりすることが必要だ。したがって、職場で支援するには、担当者だけが情報を保持した状態ではなく、職場で共有し、認識を共通させることが不可欠の条件となる。
「パワハラ防止指針」も、取り組み例として「著しい迷惑行為を行ったものに対する対応が必要な場合に一人で対応させない」ことをあげており、クレームやハラスメント対応には、職場における支援が必要であることは明らかだろう。
※参考
「労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか」《上》
「労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか」《下》