残業は減らしたい、でも業績は上げたい
まず、業績アップをはかるためには何をするべきか。それは「1時間当たり労働生産性」を高めることである。1時間当たりの労働生産性とは、労働者が1時間当たりに生産できる成果を数値化したものである。1時間当たりの労働生産性は、以下のような式で表すことができる。(1)付加価値額を上げる
(2)社員全員の総労働時間を減らす
しかし、多くの会社では、下のアンケート結果1位が「長時間労働の是正」であるように「(2)社員の総労働時間を減らす」から取り組み始める。それはなぜかというと、簡単だからである。たとえば、残業をおこなわなければならない理由を従業員に確かめずに「残業禁止」と通達すればすむからだ。だが、残業時間分で生産できる成果がなくなるため、業績が下がるのは当然のことでもある。
だから、「(1)付加価値額を上げる」ことから始めなくてはならない。まずは、1時間当たりの労働生産性を高め、業績を上げてから、余裕ができた分を残業時間の削減に充てるべきである。そうしないと、残業を減らしながら業績を上げるという矛盾が生じることになるからだ。では、「(1)付加価値額を上げる」にはどのようにすればよいのだろうか。
※1:HR総研 働き方改革実施状況に関するアンケー2019「働き方改革の目的」
付加価値を上げるには、できる社員の行動を「模倣」させろ!
あなたは「はじめて任された仕事で高い成果を出すためには、何が大切だと思いますか?」と聞かれたら、何と答えるか。私であれば、「その仕事で結果を出している人を模倣することだ」と答える。なぜなら、模倣こそが高い成果を出すための最短ルートだと思っているからである。では、実際に結果を出している人(できる社員)を模倣させ、社員の労働生産性を3倍にアップさせた事例を紹介する。
その会社は、札幌にある中屋敷左官工業株式会社(※2)。いままでの指導方法といえば、先輩の「仕事を見て盗め」だった。だが、従来とはまったく違う指導方法を取り入れることにより、労働生産性を大きくアップさせたのだ。
具体的な方法は、一流職人の実演動画をくりかえし見ながら、コテの使い方や体の動かし方をそっくりそのまま模倣するものである。マニュアルとは違い、言葉では表現しきれないコツが伝えられること、時間や場所によらず予習や復習ができることも利点である。その結果として、これまで3時間以上かかっていた塗りの作業が、1時間にまで短縮できるようになったという。また、入社3目の若手社員が「技能五輪」に出場して銀メダルを獲得するほど、短期間で実力をつけてもいる。
そのうえ、若手社員の成長がおどろくほど速くなったことで、彼らは「自分は役に立つ存在だ」と早くから感じ取り、仕事が楽しくなった。この効果によって、定着率も向上しているという。若手が育たない、定着しないと悩む経営者は、あわせて参考にしてほしい。
このように、仕事で結果を出している人(できる社員)を模倣させて、全社員に高い成果を出させることが、会社の付加価値を上げる一番の近道であることがおわかりいただけたと思う。後編では、会社の業績アップに欠かせない「できる社員の模倣のさせ方」を詳しくお教えする。
※2:中屋敷左官工業株式会社
佐野浩之
ひと・しくみ研究所 社会保険労務士
採用・定着・教育に強い ひと・しくみ研究所
https://www.hitoshikumi.com/