「賃金表」を利用した賃金制度では評価があいまいになる
「賃金表」を用いた制度のなかで代表的なものに、「職能資格制度」があります。簡単にいうと、必ず1年ごとに能力が向上することを前提とした制度です。まず、人を能力で序列します。たとえば、新人は1等級から始まり、部長クラスは9等級になるという具合です。等級が高くなるほど能力があることになります(これを昇格ともいいます)。しかし、ここに問題があります。等級の基準があいまいなことです。1等級の新人という基準はわかりやすいですね。しかし、2~3等級、そして4等級と、細かく分ければ分けるほど、基準があいまいになってきます。なぜなら、分けるからには「違い」が必要になるからです。
たとえば、次の基準は部長クラスに相当する基準でよく見かけるものです。
また、もうひとつ中小企業に多いケースは、該当する従業員が誰もいない等級が存在してしまうことです。1~9等級のように等級を細かく分けすぎた結果、誰も該当しないことがあります。これは書籍などで紹介されているような等級基準をサンプルにしてしまい、自社に合わない基準を利用したが原因です。
そして、賃金表です。賃金表には「号俸」というものがあります。これは、1つの等級のなかにある階段のようなものです。たとえば、「1等級1号俸から50号俸まで」というように、賃金が1,000円単位で上昇するものです(昇給ともいいます)。これは、上位の等級には昇格できないが、1年間のインセンティブとして昇給を運用させる仕組みです。これが問題です。
あらかじめ賃金を決めた表を作成するということは、賃金規程の一部として労働基準監督署に提出しなければなりません(10人以上の従業員を雇用する事業場の場合)。この賃金表は会社と従業員との約束になります。今後、経済情勢や会社の状況などが変化しても守らなければなりません。また、号俸が多くなればなるほど、上位の等級の1号俸といった小さな号俸と賃金が逆転することがあります。
これでは、がんばって上位の等級に昇格しなくても、そのままの等級で昇給さえしていれば賃金は上がると考えてしまい、モチベーションの向上にはつながりません。
具体性のある評価制度で業績向上
このように、基準に点数をつける評価方法を、中小企業の評価基準で多く見てきました。そのほとんどがあいまいなものでした。営業職など業績を数字で表すことができる職種はよいのですが、それ以外の職種は仕事のプロセスや、目標の達成度を評価対象にせざるを得ません。この、数字で表れない評価項目に問題があります。たとえば、「責任感」や「積極性」という評価項目に「3点」と評価点をつけるとします。評価点をつけるということは、具体的な行動を見ているはずです。その具体的な行動を言葉にまとめると、「困難な仕事や状況に対し、進んで挑戦したか」という表現になっているはずです。それならば、最初から具体的な行動を評価項目にするほうが、より明確になるのではないでしょうか。「責任感」や「積極性」などは評価する点を言葉に表現したにすぎません。
また、「目標管理制度」という仕組みで評価している企業もよく見かけます。その目標は適切なのでしょうか? たとえば、営業部員が目標に「簿記2級合格」をかかげ、結果、合格するといったケースがあります。これでは営業部の目標を達成したことにはなりません。従業員の目標は、部門の目標にリンクしていなければなりません。そうすれば、各従業員の評価が良いならば、会社の業績が向上しているはずなのです。
会社の業績を向上させるための具体的な戦術を、評価基準にしなければなりません。具体的というのは「誰もが説明できる」ということなのです。
真田直和
真田直和社会保険労務士事務所 代表
https://www.nsanada-sr.jp/