安倍晋三首相が成長戦略の中核に挙げる「女性の活躍」。世界経済フォーラムがまとめた男女平等の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」によると、2013年の日本は105位、2008年は98位。今後の日本の成長のためには女性の活躍が欠かせないと言われているが、実際は順位を落とす結果になっている。
また、管理職に占める女性の比率は先進国では30~40%程度だが、日本は9%にとどまり、賃金に関しても、同一労働の賃金で男性を100とすると女性は62にとどまっている。成長戦略では25歳から44歳までの女性の就業率を20年に73%に高める計画だが、このように多くの課題が浮き彫りになっている。
新しい労働時間制度(いわゆる残業代ゼロ法案)は企業経営者側が提案している案は、年収1000万円以上、あるいは従業員の半数以上をカバーする労働組合がある会社の組合の同意に加えて、社員一人ひとりの同意がある場合に、残業代の支払いを免れるといったものだ。
現在でも、管理監督者の地位の社員は残業代の支払いの無い働き方が認められているが、実際は「名ばかり管理職」といわれるように対象の範囲はかなり狭い。
結局、この改正で、管理監督者以外の残業代支払いの対象になる社員に対しても「残業代ゼロ」の働き方を可能にすることだ。少なくとも、そのように利用する企業があることは、想像に難くない。仮に現状の状態でこの制度が運用されれば、経営側にとって有利なものになるのではないか。
例えば、現在の日本の労働組合は、組織率も低く、特に大企業においては、組合幹部が経営者と仲良しのいわゆる「御用組合」が多い。また、圧倒的に経営者側の立場が強い状況で社員一人ひとりの同意がどの程度担保されるのかも疑わしい。
このようにこの新しい労働時間制度には賛否両論あるが、議論されることについては大いに賛成である。また、報酬を決める成果を客観的に評価できる仕組みなり運用ルールがあり、労使双方が納得のいく限りにおいては導入していいのではないか。
しかし、この労使双方が納得するというのが実に困難であることも事実である。
例えば、車のセールスのように誰の目にも成果が明らかで測ることができるような仕事と、一般的なオフィスワークでは評価の方法は全く異なるだろう。前者では、誰が評価をしても評価に差がつくことは無いはずだが、後者の場合、たとえ評価方法が決められていても評価者によって差がついてしまうのが日本企業には多い。
以前、残業代を払わなくてもいいという誤解もあってか、一般のオフィスワークにも年俸制が流行した。いわずもがな、年俸制は仕事の成果に対して報酬を支払う制度だ。
実際、オフィスワークでは成果に対する評価の難しさがあり、年俸制を廃止した企業も数多い。それは評価する者の力量不足も起因している。一人一人の仕事を適正に評価して、その評価について納得の行くコミュニケーションを行うのは、なかなか難しい。特に、中小企業においては顕著である。
成果に対する適切な評価が出来るかどうかで、「残業代ゼロ法案」の成否は決まるのではないか。
社会保険労務士たきもと事務所 代表・社会保険労務士 瀧本 旭