新型コロナウイルス感染症拡大の影響をきっかけに、「時差出勤」や「テレワーク」という言葉をよく聞くようになりました。しかし、新型コロナウイルスが鎮静化したとしても、今後も台風や地震などの災害で業務に支障をきたす事態になることは容易に想像できます。大企業では、多くの企業がテレワークの導入を積極的に進めていますが、テレワークこそ中小企業に導入してほしい制度なのです。テレワークを導入すれば、業務の生産性を上げることができるだけでなく、通勤費や紙代などのコストカットが大いに期待できるからです。厚生労働省から助成金も出ますので、この機会にテレワークの導入を検討してみませんか?
働き方改革~助成金を使ってテレワークを導入し、企業イメージをアップ!~

そもそも「テレワーク」とは何か?

テレワークとは、「ICT(情報通信技術)を活用した場所にとらわれない柔軟な働き方」のことです(総務省「情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書」より)。つまり、「テレ=離れたところで」+「ワーク=はたらく」という意味で、従業員の方が会社にいなくても仕事ができる環境づくりをするということです。

たとえば、よく聞くのが「テレビ会議」ですね。それぞれ離れた場所にいるメンバー同士で、インターネットを使って会議をする、といったイメージです。しかし、テレワークは会議だけでなく、事務作業などの普通の業務も会社に出勤することなくできるようにすることが可能です。これができるようになると、下記のように、メリットがたくさんあります。

・BCP対策につながるので、お客さまに積極的にアピールでき、企業イメージがアップする。
・台風といった自然災害で電車が計画運休になっても業務が止まらないので、お客さまへのサービスを提供し続けることができる。
・子育てや介護をしている従業員が急に休んでも自宅で業務をおこなってもらえるので、他の従業員の方の負担を軽減できる。
・介護離職の防止や育児休業の短縮につながり、従業員の方のスキルを活用しやすい。
・残業代の削減やペーパーレスが進みコストをカットできる。
・「在宅勤務可能」と提示すると求人の応募率がアップしやすい。

では、テレワークにはどのような種類があるのか見ていきましょう。大まかに「在宅勤務」、「モバイル勤務」、「サテライトオフィス勤務」に分けることができます。

まず「在宅勤務」とは、従業員が会社に出勤することなく、自宅を就業場所にする勤務方法です。台風や地震などの災害が発生して交通機関が動かず、通勤が難しい場合でも自宅で仕事ができるので、業務に対するリスクを最小限に食い止めることができます。また、子育てや介護をしている方の休業や離職による業務へのダメージを軽減することもできます。

次に、「モバイル勤務」は、たとえば営業職や現場管理職にある方が、営業先や現場、電車移動の間や、出張先のホテルなどでも仕事ができるようにする働き方のことです。ノートパソコンやスマートフォン、タブレットなどのモバイル端末を貸与することで、オフィスにいなくても、さまざまな場所で見積書や報告書の作成などの仕事ができます。わざわざ会社に戻って作業しなくてもよくなり、業務の効率化が期待できます。

最後に「サテライトオフィス勤務」とは、郊外や県外などに小規模なオフィスを設けて、従業員の通勤に対する負担を減らすことができる働き方です。営業所よりももっと小規模にすることができます。たとえば、コワーキングスペースを確保して、インターネット環境など最小限の設備で業務がおこなえるようにすれば、コストを抑えることができます。

スタートは「1人・週1回・1時間」から

では、どうやってテレワークを導入すればいいのでしょうか。キーワードは、「少しずつ」です。「最初から全社で導入しよう!」というのはよいことなのですが、まずは最小限の導入をして、そこから少しずつ、人や時間などの範囲を広げていくのが良策です。新しい試みは、手探りの状態で進めていくわけですし、その会社に合ったやり方がありますので、小さくテストを繰り返していくようにしましょう。

具体的には、「従業員が自宅で見積書を一通作成してみる」といったイメージです。実際にやってみると、見積書を一通作成するだけで、「パソコンは会社から貸与するのか、個人のパソコンをつかってもらうのか」、「見積書のフォーマットをどうするか」、「過去の見積金額のデータをどうやって共有するのか」など、いろいろと運用ルールを決めなければいけない課題が見つかると思います。それを一つひとつ解決していくことで、テレワークがその会社に浸透していくのです。

たとえば「〇〇さんは、水曜日の9時~10時までの1時間、自宅で見積作成業務をする」といったところからスタートするのがポイントです。最初の1時間が成功したら、次は「毎週水曜日の午前中だけ」といったように、範囲を少しずつ広げていけば大丈夫です。まずは、勇気を出して小さな一歩を踏み出しましょう。そうすれば、企業のイメージアップやコストカット、従業員の定着などのメリットが手に入るのですから。

ただし、テレワークを導入するには初期投資が必要です。なかなかそのような資金を出すのは大変だろうと思います。そんな時にこそ活用したいのが「助成金」です。

厚生労働省が管轄している助成金で、「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」というものがあります。2020年度分は4月から受付開始となりますので、ぜひ検討してみてください。

この助成金を受給するためには、「テレワーク用通信機器の導入や運用」や「クラウドサービスの導入」、「外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティング」などの取り組みをおこなう必要があります。それが適正と認められれば、支出した費用の一部を助成してもらえる仕組みになっています。

助成金の支給額は、2019年度の要件では、1企業あたりの上限額が目標達成時で150万円、 目標未達成でも100万円となっています。助成割合は、目標達成時で、かかった経費の3/4(1人あたりの上限20万円)。未達成の場合でも1/2(1人あたりの上限10万円)となっています。この機会にぜひご検討ください。

もし、取り組もうと思われた時は、お近くの社会保険労務士に一度ご相談されることをおすすめします。助成金の申請の代行ができますので、ややこしい書類作成を企業に代わっておこなってくれますし、テレワークの進め方のアドバイスも受けることができるでしょう。


山口善広
ひろたの杜 労務オフィス
社会保険労務士

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