日本政策金融公庫総合研究所は2019年12月、日本公庫総研レポート「中小企業でも始まるAIの活用」を発行した。AIを導入した中小企業に対してヒアリングを実施し、その活用の実態について調査したものだ。現在のAIの活用方法と事例、今後求められる政策サポートについて取り上げている。
従業員支援や見える化を実現。日本公庫総研が「中小企業でも始まるAIの活用」を発行

AI活用は企業の経営課題の救済策となるか

近年の日本では「人口減少」や「少子高齢化」が深刻化すると同時に世界経済における地位低下という構造的な問題にも直面している。これが背景となり、多くの企業が人手不足への対策や生産性の向上、技術承継など、いくつもの経営課題を抱えている。とくに大企業に比べて経営資源の制約が強い中小企業で、その深刻度はより高まっているようだ。

これらの経営課題の解決に効果が期待されているのが「AI」活用だ。大企業だけでなく中小企業でもAI導入に積極的な姿勢が見られるようになったが、それを実現している中小企業はほんの一握りという現状もがある。本レポートは、数少ない中小企業におけるAI活用の実態を探るべく、インタビューを通して作成された。

中小企業におけるAIの活用方法と求められる政策的支援

企業のAI活用として、「従業員の支援や代替」と「見える化」、そして「製品やサービスの開発」の3つの事例があげられている。

「従業員の支援や代替」に関する事例として、人間には難しい業務や手間のかかる業務に対しAIを活用した、食品スーパーを経営する企業の取り組みがあげられた。廃棄ロスなどを最小限にする発注システムを開発し活用することにより、売り場を担当する従業員全員を発注業務に当たれるようになったという。

「見える化」を行った事例としては、小売店のディスプレーを施工する企業での取り組みが紹介された。消費者の顔や体の動きを元に集客効果を測定する画像解析システムを開発したことで、効果的なディスプレー作りが可能となったという。これまで把握しきれなかった仕事の成果や課題の可視化に、AIは大きな力を発揮するようだ。

また、自社課題の解決を目指し開発したAIシステムを開発、製品化して外販することで新規ビジネスを展開した例もあるとしている。

しかし、中小企業が自力のみでAI活用に挑戦するのは容易ではなく、サポート体制の整備を求める声もあった。システム開発のパートナー探しを支援する仕組みの構築やより多くの中小企業で取り入れやすくなるパッケージ製品の開発、また、地域や業界レベルで効率的にAI活用を促進していくことが、今後期待される政策的支援だとしている。

勘を頼りに行うしかなかった作業を機械化できたり、膨大な量のシミュレーションを可能にしたりと、AIの活用によって得られるメリットは数多い。また、人手不足や採用難で悩む中小企業にとって、社員が働きやすい環境を提供するための有益なツールにもなり得るだろう。本レポートの事例を参考に、AIの活用に積極的に踏み出してみてはいかがだろうか。

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