知識不足からくる「うっかり」をなくす
前述の「あかるい職場応援団」(ページ最後のリンクを参照)のハラスメント基本情報(ハラスメントの類型と種類)によれば、マタハラは次の2つの類型に整理されている。(1)制度等の利用への嫌がらせ型
出産・育児・介護に関連する社内制度の利用に際し、当事者が利用をあきらめざるを得ないような言動で制度利用を阻害する行為。
(2)状態への嫌がらせ型
出産・育児等により就労状況が変化したことに対し、嫌がらせをする行為。
本稿のタイトルに掲げた「うっかりマタハラ」というのは、この(1)の類型について起こりがちなことだ。
「嫌がらせ」というと悪意があるように聞こえるが、実際は、制度・法についての知識を欠いているために、「うっかり」やってしまうことが多いのではないだろうか。こうした「うっかりマタハラ」は管理職の意識次第、または、管理職の教育次第で防ぐことができるはずだ。まずはこれらを意識することがマタハラ防止の第一歩である。
男女雇用機会均等法や、育児介護休業法で事業主に義務付けられている制度は、たとえ就業規則に記載がなくても、認めなくてはならない。「うちの会社にはそんな制度はない」などと、「うっかり」言ってはいけない。
また、育児・介護中の労働者に対しては、休業や休暇だけでなく、短時間勤務制度、時間外労働の制限など、従業員の申し出によって事業主に課される義務がいくつもあるので、管理職はこうした概要も頭に入れておく必要がある。事実、妊娠中の女性に対する健診時間の確保なども忘れがちである。
部下から制度利用の申し出を受けた時、「そんな制度あったっけ?」とあやふやな場合は、決して適当な回答はせず、「会社としては法律を守り、従業員の権利を尊重している。だが今、詳細が分からないので、総務部などしかるべき部署に問い合わせるから、ちょっと待ってくれないか」と、いったん話を受け止めておくとよい。
ただ、忙しいからといって「うっかり」そのまま忘れてしまうと、部下にとっては、制度利用の申し出をしたのにそのまま放置され、利用を阻害された、と解釈してしまう場合もあるため、できるだけ速やかに対応しよう。
古い固定概念で、男性社員にも“マタハラ”をしていないだろうか?
制度に対する知識不足と並んで、マタハラの温床になっているのが、性別役割分担に対する固定概念である。その代表的な例として、「育児は母親がするもの」と思い込んでいないだろうか。男性の育児制度の利用に関する嫌がらせについては「パタハラ」という言葉もあるが、内容に大きな違いはないので、ここではマタハラとして説明する。(「マタニティ」=「母性」、「パタニティ」=「父性」)
通常、女性の部下から妊娠の報告があり、産休・育休取得についての相談があった時、大抵の上司は心の準備ができているものだ。
しかし、男性の部下から、育休の申し出があったらどうだろうか。
育児休業は男女ともに取得できると、頭では分かっていても、日頃の固定的な性別役割分担意識が邪魔をして、とっさに「はぁ? 何言ってるんだ?」などと渋い顔をしてしまいがちだ。
はっきり拒否しなくても、そのような威圧的な態度は、「当事者が利用をあきらめざるを得ないような言動」と取られる可能性がある。
また、育休だけではなく、男性の部下から「子供が3歳になっていないので、残業はできません」と言われたらどうだろうか。
所定労働時間免除の申し出は、1回につき、1ヵ月以上 1年以内の期間について、開始予定日と終了予定日等を明らかにし、開始予定日の 1か月前までに申し出れば、何度も行うことができる。
管理職自身が「自分の子供が小さかった頃は毎日残業で、寝顔を見るのが精一杯だった」と思っても、現在は男女労働者の権利として上記のような制度があるのだ。
それなのに、「男のくせに何考えてるんだ! この忙しい時にそんなことできるわけないだろう」と反応してしまうと、一発でマタハラ認定である。
個人的なことに関してはどのような考えを持とうと自由だが、管理職としては、育児・介護に関する制度利用に際し、部下の性別によって態度を変えてはいけない。このことも、しっかり意識しておこう。
>>【参考】厚生労働省:あかるい職場応援団
李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー