100年安心の制度は瓦解している
「2,000万円問題」とは関係なく、公的年金の現在の状況は、「100年安心が瓦解しそうな年金制度」、あるいは「給付額の先行きが見通せない低額な老後資金」とでも表現するしかない。制度を盤石にしようとすれば、意味のある給付とはならないし、給付を維持しようとすれば制度がもたない。どうしてこうなってしまったのか?
原因については種々考えられるが、制度が分かりづらい、開示情報が少ない、まやかしの情報で誤魔化す、といった情報開示の不徹底や、時代にミスマッチな制度への愚かな弥縫策の積み重ね、シルバー民主主義下でドラスティックな改革の回避、などが挙げられよう。
社会保障制度の再構築や社内制度の充実で安心できる将来を
時に、こういう論じ方をすれば、年金の専門家と言われる方々などから「年金不安を煽っている」と揶揄されることも多い。しかし、事実だから仕方がない。2004年の財政再計算、2009年の財政検証、2014年の財政検証とすべてを自らの手で検証してきた知見に基づけば、どう数字をいじくり回しても、現在の年金制度を対症療法的に維持していく意味が見出せないのだ。そのようなやり方で、仮に制度が維持できたとしても、それは国民の精神を萎えさせるだけになってしまう。すでに、公的年金だけを論じても、未来の安寧へのソリューションとはならない状況にある。医療・介護を含めた社会保険制度、社会福祉制度、生活保護制度などなど、雇用社会の将来を踏まえた「維持可能」で「未来の安心」を担保した社会保障制度の再構築を喫緊に進めていくのが、政官の役割と責任であろう。
また、企業の経営者もこれを他人事と考えてはならない。ここまで述べてきたことは、自社の社員に今後降りかかってくる現実であり、社員の「今」の想いでもある。社員以上に制度を理解し、可能な対応策を講じることは、社員のロイヤリティを高めることにもつながる。
401k(確定拠出年金)などの企業年金制度の導入や、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入促進、GLTD(団体長期障害所得補償保険)の導入、社会保障制度の社内研修、社員向けのライフプラン研修・相談会などなど、できることはいくらでもある。まさに、労使双方が協調しながら将来のリスクに備えていくべき時代の到来と言えよう。
社会保険労務士・CFP
大曲義典
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