日本において、多くの企業で「階層別研修」の体系が用いられている。これは職位や職責に応じて、必要な知識やスキルを研修で学ぶ研修制度である。例えば、課長研修、管理職研修、役員研修と呼ばれる研修で、それぞれの職位になった時、あるいは、その職務に就くために受講する研修だ。新卒を対象とした、新入社員研修もその一つで、社会人としてスタートするにあたり、会社のルールや、業務を行うために必要なスキルを学ぶ。
このような階層別研修は、実施するタイミングで、「着地研修」と「事前研修」に分かれる。
 「着地研修」とは、例えば部長に昇進した際、部長としての業務に必要な知識やスキルを学ぶ研修のことである。一方、「事前研修」とは、例えば部長になるためには、部長の前職である課長職を対象に、部長に必要な知識やスキルを事前に学ぶ研修になる。
 一般的には、「着地研修」が多いと思うが、即戦力化を目指す場合や、職位に求める基準を安定的に求める場合には、「事前研修」が効果的である。

 また、「階層別研修」とは異なり、必要な知識やスキルを職位や階層に拘らず、学ばせる研修の仕組みを持っている組織もある。このような体系を「テーマ別研修」とも呼ぶ。
 例えば、コーチングのスキルを全社へ導入する目的で、職位や職務に限らず、対象者に実施する研修などである。他にもリーダーシップ、ロジカルシンキング、といったテーマなどがよくある「テーマ別研修」だ。これらのテーマは、「階層別研修」などでも学ぶことがあるが、このような仕組みが無かった場合、または徹底できていない場合などは、これらのスキルが職位や職務に必要になり、多くのスタッフに学んでもらうために「テーマ別研修」として一定の期間に全社員に導入したりする。近年、多くの企業が「テーマ別研修」として実施しているテーマに「理念伝承」がある。組織理念が重要なことは勿論であるが、改めて組織全体に浸透させるために全社員を対象に一定期間に徹底してワークショップやセミナーを通して醸成する事例が多く出てきている。

 このように研修体系には、「階層別研修」と「テーマ別研修」があるが、共に対象者を「必須研修」とするのか、「選抜研修」にするのか、「希望研修」にするのかにも分けることができる。
 「必須研修」とは、その研修の対象者が必ず受講すべき研修であるが、一般的には「階層別研修」に用いられることが多い。「テーマ別研修」では、対象者が多くなり、時間やコストがかかったりすることがある。「選抜研修」とは、対象者を絞り込んで実施する研修である。こちらは主に「テーマ別研修」で用いられることが多い。ただし、これは選抜の方法が重要で、選抜する基準が課題になる。よく、選抜と推薦を組み合わせて実施することがある。「希望研修」とは参加希望者を募る研修のやり方である。応募者が多い場合は、何らかの基準で選抜することになる。しかし、応募者が少ない場合には効率が悪くなるため、前述の推薦と組み合わせる必要が出てくる。

 これらの、「階層別研修」「テーマ別研修」の研修体系は多くの企業で行われる研修体系であるが、近年、特に注目されている研修テーマがある。
 それは「イノベーション」をテーマにした研修だ。今と同じやり方だけで、現在の延長線上に未来の成功が約束されている組織がないことは多くの企業が気づいている。しかし、今と違うこと、即ちイノベーションを起す仕組みを組織に埋め込むためには、そのような人財を開発する仕組みが必須となる。そのために「イノベーション」をテーマにした研修体系が大きな挑戦となる。具体的には、「発想法」「デザイン思考」「クリティカルシンキング」などを検討すると良いだろう。「イノベーション」とは、改善や変革だけではない。「改善」とは、今行っていることをより効率的、効果的に変えることだとすると、「変革」は、今行っていることをいかに変えて、より良くするかである。「イノベーション」は中国語で「創新」と言うが、「創新」とは全く行ったことのないことや新たな基準や仕組みで実施することを指す。このような思考法は、今までの成功体験や失敗体験を参考にするだけではなく、多様性を活かし、固定観念を捨てて取り組まなければならない。

HR総研 客員研究員 下山博志
(株式会社人財ラボ 代表取締役社長/ASTDグローバルネットワーク・ジャパン副会長)

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